鉄道「オールジャパン」のちぐはぐな実態 日本の鉄道は本当に「世界一」なのか?

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近畿車輛が製造する大阪環状線車両。同社はこれから繁忙期入りだ(撮影:尾形文繁)

だが、近畿車輛にはマニラ案件を手掛けられない事情があった。数年前、売上高の低迷に悩んでいたのとは裏腹に、現在は国内向けでは東京メトロ・日比谷線、東武鉄道・伊勢崎線、JR西日本・大阪環状線、海外向けではドーハメトロという大型案件が目白押しだ。

現状の生産体制では間に合わず、工場拡張に踏み切った矢先である。ここにマニラ案件が割って入る余裕はなかった。「マニラで新たな案件が出てくるかもしれないことを知らないはずはないだろうが、手持ちの大型案件で精いっぱいで、いつ出てくるかわからない案件を待っている余裕はなかったのだろう」と関係者は解説する。

一方の日本車輌製造は、米国の現地生産拠点であるイリノイ州の工場の生産遅延に、大型案件プロトタイプ車両の設計見直しというトラブルが重なり、生産体制立て直しの真っ最中である。納期に遅れると多額の違約金支払いが待ち構える。近畿車輛とは別の理由で、受注はできなかった。

他の鉄道車両メーカーも要求には応えられなかった。問題となったのは設計者不足。「新型車両の設計は手間暇がかかる。しかもどのメーカーも車両設計をできる人材が不足している。突然の2017年納入開始という要求には、とても対応できなかったのだろう」(関係者)。

「メーカー側の事情により、マニラ案件の車両納入が叶わなかった。JICAや商社は面目丸つぶれだ。鉄道輸出を積極化したい日本政府の方針にも水を差す格好となった」(関係者)。メーカー側に生産能力の向上を求めるレポートが書かれたのはこうした事情による。またレポートには「案件形成段階からの車両メーカーの意向等の十分な確認」が求められると記されているが、裏返せば、こうした基本動作すらできていなかったわけだ。

現地生産は容易ではない

同レポートでは、「現地生産化要請への対応」についても指摘している。日本が昨年受注したインド高速鉄道(ムンバイ―アーメダバード間)では、インド政府側は将来の現地生産化を期待している。鉄道車両を自国で製造し、将来は他国へ輸出する。いわば中国のようなビジネスモデルを思い描いているのだ。

もっとも、自動車産業のようなオートメーション化による大量生産とは違い、鉄道車両の生産は手作業の部分が多い。つまり、生産の決め手となるのは工員の熟練度である。といっても、世界には鉄道車両産業がない国も多く、未経験の現地社員にゼロから技術を教え込むのは容易ではない。しかも、「そうやってようやく技術が身に付いた社員は転職しちゃうんですよね」と、ある鉄道メーカーの幹部はこぼす。勤務態度がよくない社員も少なくないといい、現地生産に際して日本のような勤勉さを求めるのは簡単ではない。

インド高速鉄道の次の候補として日本政府が期待するのがマレーシア―シンガポール間の高速鉄道案件。さらに8月6日には石井啓一国土交通相が訪問先のタイで、バンコク―チェンマイ間の高速鉄道を新幹線方式を前提に2国間の協力を具体化することで合意した。

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