産業ガス大手2社、こんなに違うM&A戦略 大陽日酸とエア・ウォーター、それぞれの道
「同じ産業ガス分野なら、当社が培ってきた技術、ノウハウが海外でも活かせる」と国際・経営企画本部長の小林邦裕執行役員は話す。米国を主戦場にするのは、世界最大の産業ガス消費地であり、人口増加などで引き続き需要拡大が見込めるうえ、M&Aの法整備も整っているからだという。
これまで米国で買収した企業の大半は、製造設備を持たないディストリビューター。大手メーカーから各種ガスを仕入れ、主にボンベに充填して小口需要家の工場・事業所に届ける地域販売会社だ。
全米にはこうした企業が300社以上あり、多くはオーナー系。その中から立地などが戦略に合致した企業をピックアップし、みずからオーナーと直接交渉して買収にこぎ着けてきた。
米国における基本戦略はこうだ。まず需要家が多い場所で複数の販社を買収し、地域内でのシェアを高める。販売量が一定規模にまで増えたら、その地域に自前のASUを建設し、仕入れから自社生産へと切り換える。こうした手順で製造利益も取り込み、買収後のシナジーを引き出している。
米国における成長余地は大きい
現在の主な地盤は、カリフォルニアや南部のテキサス、フロリダなどの州。全米でのシェアは数%とまだ小さいが、それでも米国ガス事業は前2016年3月期に売上高で1885億円、のれん代償却後の営業利益で68億円を稼いだ(米子会社の決算期変更で15カ月変則決算)。同様に買収を進めるアジア・豪州も含めた全海外ガス事業の売上高は約2800億円で、伝統的な国内ガス事業(3322億円)とほぼ肩を並べるまでになった。
さらに今回のエアーリキッドからの一部事業買収で、米国事業は300億円近い売上高が加わる。買収対象となる東・中西部は産業の歴史が古く、産業ガスの大手企業ががっちり市場を押さえているため、大陽日酸がなかなか入り込めない地域だった。
「米国ではまだシェアが低い分、これからもっと事業を伸ばせる余地が大きい」と小林執行役員。当面はエア・リキードから継承する製造設備の省エネ・効率化などを最優先とするが、「それにメドがついた段階でM&Aを再開し、米国ガス事業の規模をさらに拡大させたい」と意気込む。
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