しかし、仲裁裁判所は今回、こうした根本的な領有権問題に一切触れなかった。そして重要なことは、仮に南シナ海における中国の領有権の主張すべてが交渉、仲裁、あるいは裁定を通して、いつか受け入れられたとしても、領海、排他的経済水域、大陸棚に対する権利を含む全領域は、九段線によって囲まれた広大な海域の面積には依然として及ばない。
中国は南沙諸島の海域において、ミスチーフ礁、スビ礁、ガベン礁、ヒューズ礁、ジョンソン南礁、クアテロン礁、ファイアリー・クロス礁という七つの岩礁に人工島を建設し、そこに軍事目的の滑走路や供給基地、通信設備、砲床などを建造してきた。今回の仲裁裁判所の裁定は、その建設の権利についての中国側の主張を退けたものだ。
国連海洋法条約によれば、国家は自国の排他的経済水域内と公海上に、あくまで平和目的に限り、人工島や施設を築いてもよい。しかし、それまで海中に没していた礁を「岩」にしたり、居住不可能な岩を「島」にしたとしても、法的な効力を持つことはできない。今回の裁定は、こうした基本原則を確認した。
このように確認することで仲裁裁判所は、少なくとも以前は海中に没しており、フィリビンの排他的経済水域内に位置するミスチーフ礁に、中国が何らかの建造を行う権利は一切ないことを明確にした。
中国の面子つぶさずに段階的な対処を
中国が今後、人工島建設を中断したり、周辺海域の領有権の主張を取り下げる公算は小さい。だが、この地域の安定確保に関心があるすべての関係者は、中国が面子を失わずに済むような何段階かの措置を講じるべきだ。
中国・人民解放軍の中には、国連海洋法条約を無視して、南シナ海の大半に対して防空識別圏(ADIZ)の設定を宣言するなど、さらに強硬な姿勢を取るべき、と主張する者もいる。仮にADIZの設定を宣言すれば、米国との緊張感が高まり、軍事衝突の可能性も生じる。
地域の安定確保のためにも国際社会は中国に対し、人工島建設の中止、九段線の権利主張の取り下げ、南シナ海の行動規範についての東南アジア諸国連合(ASEAN)との交渉などを促すべきだ。緊張を高めるのでなく、緩和する余裕を与えることが、中国を含む国際社会の利益になるはずだ。
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