欧米ではビートたけしは時代おくれ? 欧米では次々と施策が進むが…

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海外政府とのトラブルも起きている

また海外政府とのトラブルも起きているようです。出入国審査の基準となる「入国・在留審査要領」では、配偶者のビザが異性の相手に限られています。このため海外で結婚した同性カップルに対し、ビザの発給を対象外とした措置を取ってきました。匿名でインタビューに応じてくれた外交官によると、日本の外務省は各国大使館に対して、同性の配偶者がいる場合「家事使用人(個人的使用)」として活動を希望する際に呼び寄せすることができる証明書を利用するように要請していたと言います。

つまり、「公式に配偶者としては認められないが、使用人としてであれば、非公式に呼び寄せてもいい」というやり方です。このやり方に複数の国が「自分の夫は、お手伝いさんではない。」と反発しました。日本にいる大使の中には、同性の配偶者がいる方が複数いらっしゃり、多くの方がカミングアウトしています。最近になって政府はこの政策を転換、正式にビザを配偶者として発行するようになったといいます。昨年、大阪・神戸アメリカ総領事のパトリック・J・リネハン氏に、日本政府は「外交官の配偶者」としてビザを出して、新聞で報道されました。ただしこれは各国政府の「外圧」の結果、外交官に認められた特権のようです。

日本でも憲法改正はハードルが高いため、成人間の養子縁組制度や公正証書を利用すると行った動きもあります。こうした現行法内での選択肢を利用するやり方には、そもそも結婚と同じ効果を得ることができない場合もあります。たとえば養子縁組であれば、いざ遺産相続の段階で、ほかの親族から養子縁組の無効を求めて提訴される可能性があります。

こうした状態に対して日本でも動きが出ています。特別配偶者(パートナーシップ)法の制定を目指す全国ネットワークであるパートナー法ネットは、政府や国会議員などに働きかけ、現在の婚姻法が適用されないさまざまな関係(パートナーシップ)を守るための法律制定(パートナー法の設定)に取り組んでいます。

メンバーの一人池田さんも、自分の経験からこの活動に積極的に取り組むようになったといいます。池田さんはコロンビア大のMBAを取得し、日本、欧州、ニュージーランドの大手企業で勤務経験を持つエリートです。日本で知り合ったニュージーランド(NZ)人のパートナーと、NZのパートナー法(NZではCivil Union)により結ばれており、同居は20年近くに及ぶとの事です。パートナー法に基づき、資格者が立会う式もNZで挙げており、NZ法の下では家族として権利保障がなされています。ちなみにNZでは、同性婚の法律が今年中には成立の見込みで、池田さんカップルも婚姻への登録替えができそうだとのこと。

しかしながら、日本に戻って来ても、二人の職業上のニーズを満たしながら社会生活を送ることは困難と判断。現在二人は別々の国に暮らし、遠距離で少しでも多くの時間を過ごせるよう工夫しています。「もし日本に同性カップルの法的位置付けがあり、パートナーの職探しがしやすければ、あるいは、職場でも同性関係を隠す必要なく生きやすい状況であれば、違う選択をしたかもしれません」と、池田さんはコメントしています。

現状では同性の日本人と外国人のカップルが日本で暮らす場合の在留資格に問題があります。日本人の配偶者としての在留資格がもらえないは、結婚ができる男女との間と重大な違いがあります。

二人とも国際的に活躍のできるスキル・経験を持ち、まさに今の日本が求めている人材ですが、先進国ではもはや時代遅れとなりつつあるLGBTの婚姻を認めない日本の現況では、社会生活・私生活を満足に送れないと判断したのです。日本の国際化が、またここで一歩遅れているのが現状です。

柳沢 正和
やなぎさわ まさかず / Masakazu Yanagisawa

1977年東京都生まれ。慶応大学総合政策学部卒。ドイツ銀行グループ LGBT従業員グループdb Prideアジア代表

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