テレビは「視聴者の想像力」を信用していない 是枝監督が映画「いしぶみ」に込めた反骨心
「伝えること」に真摯に、正面から向き合った
――「遺族の手記」を坦々と読み上げる綾瀬はるかさんの言葉を頭の中で映像に変換し、8月6日の少年たちの姿を追っていく・・・。テレビ番組としては非常に珍しい作り方です。
『碑』をリメイクするに当たって、オリジナル同様に「音だけでいくぞ!」と最初に決めました。50年近く前に放送された『碑』を観たときにまず感じたのが、「テレビでよくこれをやったな」ということでした。
スタジオでの朗読だけで構成された番組は、視聴者の想像力への信頼を前提に作られていて「すばらしいな」と。番組制作を引き受けたとき、今のテレビでこうしたものを作るのはかなりチャレンジだなと思いました。
今のテレビの多くの番組は、視聴者の想像力を信用していない作りになっているからね。「全部を説明しないと、視聴者は頭の中で想像できない」と思っているわけですよ。僕がテレビ番組の制作にかかわるようになった1990年前後からその傾向はあったけれど、インタビューの内容をすべてテロップ(字幕)で映し出して伝えるという、極端な手法を使い始めたのは15年ほど前くらいからでしょうか。
『いしぶみ』をテレビ放送する際に、実は、テレビ局側から画面にテロップを出すように指示されたのですが、「出さない」と突っぱねました。テロップを画面に出したら視聴者はまずテロップを読む。それでは朗読で表現している意味がない。『いしぶみ』では、今のテレビが失いつつある「伝えること」について真摯に正面から向き合い、制作に当たりました。
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