テレビは「視聴者の想像力」を信用していない

是枝監督が映画「いしぶみ」に込めた反骨心

「視聴者の想像力に委ねることも重要」、是枝監督はテレビと視聴者の関係を改めて問うている
原爆ドキュメンタリーの制作に定評がある、広島テレビが制作した映画『いしぶみ』が7月16日から全国で順次公開される。『いしぶみ』は同局が1969年に制作した『碑(いしぶみ)』を2015年8月に戦後70周年特別番組としてリメイク、日本テレビ系列で放送したもので、映画版はそれを再編集した作品だ。
オリジナルの『碑』は、1945年8月6日、原子爆弾によって命を奪われた旧制広島第二中学校1年生の遺族から寄せられた手記を女優・杉村春子がひとりで読み語るという朗読劇だった(9月末まで広島テレビHPで配信中 )。
リメイクでもオリジナルの作り方を踏襲している。是枝裕和監督は、テロップ(字幕)が欠かせない今のテレビ番組に慣れた視聴者に向けてこうした手法を取るのは「かなりチャレンジだった」と語る。現代版『いしぶみ』にはどのような思いが込められているのか、是枝監督に聞いた。

「伝えること」に真摯に、正面から向き合った

――「遺族の手記」を坦々と読み上げる綾瀬はるかさんの言葉を頭の中で映像に変換し、8月6日の少年たちの姿を追っていく・・・。テレビ番組としては非常に珍しい作り方です。

『碑』をリメイクするに当たって、オリジナル同様に「音だけでいくぞ!」と最初に決めました。50年近く前に放送された『碑』を観たときにまず感じたのが、「テレビでよくこれをやったな」ということでした。

綾瀬はるかさんの朗読を聞き、視聴者はその光景を想像していく。『いしぶみ』は最近のテレビ番組や映画とはまったく異なる作りだ ©広島テレビ

スタジオでの朗読だけで構成された番組は、視聴者の想像力への信頼を前提に作られていて「すばらしいな」と。番組制作を引き受けたとき、今のテレビでこうしたものを作るのはかなりチャレンジだなと思いました。

今のテレビの多くの番組は、視聴者の想像力を信用していない作りになっているからね。「全部を説明しないと、視聴者は頭の中で想像できない」と思っているわけですよ。僕がテレビ番組の制作にかかわるようになった1990年前後からその傾向はあったけれど、インタビューの内容をすべてテロップ(字幕)で映し出して伝えるという、極端な手法を使い始めたのは15年ほど前くらいからでしょうか。

『いしぶみ』をテレビ放送する際に、実は、テレビ局側から画面にテロップを出すように指示されたのですが、「出さない」と突っぱねました。テロップを画面に出したら視聴者はまずテロップを読む。それでは朗読で表現している意味がない。『いしぶみ』では、今のテレビが失いつつある「伝えること」について真摯に正面から向き合い、制作に当たりました。

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