「国境なき医師団」の厳しい現実 その活動資金は個人が支える
落合厚彦さんは、物資調達、施設・機材・車両管理など幅広い業務を担当するフィールド・ロジスティシャンとして昨年6月から約半年間、中央アフリカに派遣されていた。日本では20年ほどラジオ番組の制作をしていたが、08年からMSFの活動に参加、マラウィ、ナイジェリア、ジンバブエ、スーダンなど、アフリカを中心に8回の派遣歴を持つ。
落合さんが中央アフリカで活動していた病院はカーノという町の基幹病院でベッド数は100ほど。一番のミッションは高い乳幼児死亡率への対策で、MSFは診療だけでなく、病院を現地の人だけで運営できるようにサポート体制の確立も目指す。またHIVやアフリカ大陸に多い睡眠病のケアも大切な仕事だ。
落合さんの仕事は幅広い。物資調達といっても、現地ではなかなか手に入らないものが多い。本部へ連絡して空輸してもらえば簡単だが、それではコストがかかりすぎる。時には必要物資を調達するため、遠くまで出掛けたり、その物資があったとしてもすぐには購入せず複数購入先が見つかれば必ず相見積もりを取って、安いほうを買う。
車両管理から飛行機の手配、水の確保まで行う
「MSFにはマニュアルがあって、効率的に業務を行うだけでなく、何にどれだけおカネを使ったかを説明する責任がある。寄付金は大切に使わなければならない。その透明性も求められている」(落合さん)
また、車両管理といっても、車の台数だけでなく、ドライバーの確保、さらには倉庫係や無線係といった現地スタッフの確保も仕事の一つだ。時には、レントゲン設備のある大きな病院へ患者を移送したり、飛行機の手配をしたりしなければならないこともある。中でも安全な水の確保は、医療活動をするうえでも重要だ。フランスの物流センターからは5000リットルのタンクやホースのセットが送られてくる。水を入れ、浄化して使う。
困ったのは言葉だった。英語以外にフランス語も勉強していたので、ある程度の会話はできるが、現地のフランス語はフランス人にもわからないときがある。現地スタッフとのコミュニケーションには苦労した。病院では電気を私用に使う現地スタッフが多くて困ったという。「自家発電しているが、現地スタッフはコンセントが空いていると、すぐに自分の携帯電話の充電に使う。やめろ、ともなかなか言えない」(同)。多くの乳幼児が亡くなっている現実の一方で、その施設内では貴重な電気がこんなことに使われているのだ。
中央アフリカの内戦はいまだに続いている。政府はこうした医療体制の整備について何もしない。政府関係者の間では汚職が横行している。
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