ユーロの「終わりの始まり」が現実化する懸念 イタリアで「反ドイツ」の火が上がりかねない

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今のところ、南欧諸国の反EU勢力は、「反緊縮」「反移民」を唱えているだけで、EUからの離脱を明確には宣言していない。自国通貨を捨て、共通通貨ユーロを採用してしまった以上、それを自国通貨に戻すにはあまりに巨額のコストがかかるからだ。EUに留まった上で、EUの規制に反旗を翻すスタンスをとっている。

一方、英国がEUからの離脱を決断できたのは、通貨まで共通化せず、英ポンドを残していたからだ。通貨を人質にとられたEU諸国は、EUからの離脱を簡単に口に出来ない。

反EU・反緊縮を掲げて2015年1月に成立したギリシャの急進左派チプラス政権も、EUに残留した上で、緊縮を放棄することを宣言していた。ところが、緊縮を放棄すると、EUからの金融支援が受けられず、ギリシャ国債がデフォルトし、EUから離脱を迫られることがわかった。そのため、チプラス政権は、公約違反であることを認めつつ、EUが求める緊縮策を受け入れざるを得なくなった。

一方、ドイツも、経済的に弱いギリシャを単純にEUから切り捨てる決断はできない。ドイツは、ギリシャをはじめとする信用不安国と通貨ユーロを共有しているおかげで、恩恵を受けているからだ。もし、ドイツがかつての自国通貨マルクを残していたら、マルクは対ユーロ、対ドルで大きく上昇し、ドイツの輸出産業を苦しめていただろう。

ドイツは経済的に弱い国々と通貨を共有することで、通貨の上昇が抑えられ、それで大きなメリットを得ている。つまり、ドイツは、ギリシャ支援で損しながら、通貨安でメリットを取るしたたかな計算をしているように見える。ところが、それが、ドイツ国民に伝わっていない。EUを主導するドイツでも、反移民・反EUを掲げる極右政党「ドイツのための選択肢」が勢力を拡大している。

ドイツへの反感がイタリアでも広がる懸念

イタリア政府は、6月27日に不良債権が拡大して財務の悪化しているイタリアの銀行に、公的資金の注入(「ベイルアウト」)を検討していると発表した。これに、ドイツのメルケル首相が異議を唱えた。公的資金の注入は、今年からEUで適用された「ベイルイン制度」に違反すると主張している。同制度では、公的資金を注入する前に、株主や債権者に損失を負担させなければならないと定める。EU加盟国の財政悪化を防ぐための手立てだ。

ただし、イタリア政府は、ベイルイン制度に従っていては自国の銀行危機を深刻化させることになりかねないと、欧州委員会の承認を得て、公的資金注入に踏み込む予定だ。財政規律とEUのルールをたてに、自国の銀行救済にまで注文をつけてくるドイツへの反感が、イタリアでも広がる可能性がある。

窪田 真之 楽天証券経済研究所長兼チーフ・ストラテジスト

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くぼた まさゆき

くぼた・まさゆき 1984年慶応義塾大学経済学部卒業。大和住銀投信投資顧問などで日本株ファンドマネージャー歴25年。2012年2月より現職。企業会計基準委員会の専門委員・内閣府「女性が輝く先進企業表彰」選考委員など歴任。著書に「投資脳を鍛える!株の実戦トレーニング」(日本経済新聞出版社)、「クイズ 会計がわかる70題」(中央経済社)など多数。

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