オーストラリア産の牛肉は安全と言えるのか ホルモン使用を巡るスタンスが米国とは違う

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ここまで書いてきたが、それでもこの肥育ホルモン問題は、そんなに大騒ぎをするようなものなのか?という疑問を持つ人も多いだろう。他国での状況はどうなのだろうか。前回記載したように、ロシアと中国はここ数年で肥育ホルモン使用を禁じることになった。しかしそれ以前から肥育ホルモンの使用を禁じ、そして米国と貿易紛争をしてまでUSビーフを輸入禁止にした国(連合)がある。そう、いま英国の離脱問題で揺れるEUである。

EUと米国の肥育ホルモン戦争

EU圏では、畜産物への肥育ホルモン剤の投与を禁じている。さらに、米国などから肥育ホルモン剤使用の牛肉輸入も長いこと禁じてきた。しかも、米国とこの問題で正面切ってケンカをして、基本的にはケンカに負けているのだが、それでも現在、肥育ホルモン使用の牛肉は輸入をしないという選択肢を維持し続けている。いったい何でそんなことができるのか。日本の今後にもかかわる話だと思うのでここで書いておきたい。

現在ではEUだが、実はこの話はまだECと称していた時代にさかのぼる。1985年12月、ECは成長目的のホルモン剤を使用した牛肉の販売・輸入禁止措置をとった。米国・カナダ・オーストラリアといった畜産輸出大国は一斉に反発し、たとえば米国は畜産物以外のEC製品に100%の関税を課すなど、厳しい対抗措置を取る。それでもECは肥育ホルモン使用の畜産物の禁輸措置をひるがえさなかった。

そうこうしているうちに、1995年、国際的な貿易の協定であるWTOが成立する。食品に関しては「衛生と植物貿易措置に関する協定(SPS協定)」というものがあり、基本的には貿易自由化を進めるため、関税以外の貿易制限をしてはいけないということが定められた。もしこれに反する国があったならば、強制的な紛争解決を図ることになる。1996年、米国はECの禁輸措置を不当な貿易障壁であるとして、WTOに提訴した。

ただ、WTOでは、輸入禁止措置が食品の安全性にかかわる問題で、科学的根拠がきちんとあるならば、その輸入禁止措置は合法であるとされる。その科学的根拠としては、食品規格委員会(CODEX)がどう評価するかということが重要となる。ということでCODEXがこの件を外部委員会に委託し評価したのだが、その結果は「天然型ホルモンに関しては人体に影響がない」という評価で、基準値を設定する必要なし。「合成型ホルモンに関しては人体に影響があるので、1日当たり摂取許容量(ADI)と残留基準値(MRL)を設定する必要があり、その基準値以下でなければならない」とした。

つまり「天然型ホルモンはそのままOK、合成型ホルモンは基準値を守ればOK」という、EC側が拒否できなくなるような結果である。ただし、ECはこの結果が出ても、天然ホルモンに関しても使用禁止・輸入禁止という措置を取り続けた。というのも、SPS協定ではもうひとつリスク評価に基づく判断を重視するということになっているからだ。

要するに、CODEXなどの定めた国際基準よりも高い(無茶な)水準の基準を掲げている場合も、ちゃんとリスクアセスメントを実施し、それが正当だという評価を得ることができれば、その禁輸措置は正当化されるというものである。

ECはさっそくEC圏内でのリスク評価を行った。しかし、そこからも一悶着が起こる。というのは、その身内で行ったはずのリスク評価において「肥育ホルモンは適切に管理される場合には安全である」という見解が提示されてしまったのだ。

しかし、ECはそれでも「適切に管理されていようがいまいが、やっぱり肥育ホルモンは禁止!」という、極めて強硬な態度をとった。いったい何が彼らをそこまでかたくなにさせたのかは私にもわからないが、ともかくこの態度を変えなかった。米国はもちろんこのかたくななECに対し「科学的な見地」から反証し、WTOの正式見解としても「ECのルール違反である」という裁定を下すこととなった。

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