多くの科学者が挑み続ける「重力波」とは何か アインシュタインが残した最後の宿題

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関係者の多くがノーベル賞のことを考えていましたとか、LIGOの創設者でありながら途中でプロジェクトから追放されてしまったドレーヴァーをめぐる確執に対してなど、複数の証言者(当人を含む)の発言をお互いに矛盾したものであっても公平に取り上げていくが(書かなくてもよいのではないでしょうかと言われることまで書いてしまう)「こういうところまで含めて、ビッグサイエンスなのだよ」と著者がさらけだしているようで抜群におもしろい。

科学の進み方

『重力波は歌う:アインシュタイン最後の宿題に挑んだ科学者たち』(早川書房)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

重力波はアインシュタインがその存在を予測してから1世紀が過ぎているだけに、1つの科学分野がその期間を通してどのように変転していくのか、といった科学の進み方を概観することができる。

たとえば、誰もが重力波なんてものを信じていなかった時代からLIGOの共同設立者であるキップ・ソーン、ロナルド・ドレーヴァー、ライナー・ウェイスの3人が「重力波は存在し、検出も可能だ」という強い欲求の下「賭けて」研究を続けてきたからこそ今に繋がっているのだ。

アインシュタイン以後、ブラックホールの存在が確実視されるようになり、重力波が存在する間接的な証拠も得られ、ひとりひとりの科学者の発見が相互に影響を与え合い、「数ある仮説のうちのひとつ」だったものがそれなりに勝算のある仮説へと変転していく。多くの挫折と本当にできるのかという不安、それでも諦めなかった一握りの無謀な冒険者たち、特異な才能のきらめき──最終的には1000人以上の科学者/技術者からなる国際コラボレーションにまで展開し、科学が前進していく(時には大きく後退もする)様子が、本書では丹念に描かれている。

新しい時代の幕開け

LIGOは本年以後さらなる観測精度のアップデートを予定しているし、日本を含む世界各国で重力波をめぐる技術/観測所は進展を続けている。これから先、音によってとらえられる宇宙、そこから判明する事象はより広がりをみせるのは間違いがない。門外漢である身にはまだそのスケールに想像が追いつかないのだが、ガリレオがかつて望遠鏡を導入した時のように「今まで見えなかったものが一気に見えるようになる」、天文学における新しい時代の幕開けとなるだろう。

今からその成果が楽しみで仕方がない。訳者解説はこちら
 

冬木 糸一 HONZ

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1989年生。フィクション、ノンフィクション何でもありのブログ「基本読書」運営中。 根っからのSF好きで雑誌のSFマガジンとSFマガジンcakes版」でreviewを書いています。

 

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