多くの科学者が挑み続ける「重力波」とは何か アインシュタインが残した最後の宿題
やたらと小難しい言い回しなので具体的な例を挙げると、LIGOによって2回検出された重力波はどちらも「ブラックホールの衝突、合体」によって発生している。その際には太陽10億個分の1兆倍を上回るという途方もないエネルギーが発生するが、ブラックホールの性質上一部たりとも光として現れず、望遠鏡ではこの事象を観測することはできない──。その代わりに、『純然たる重力現象という形で、時空の形状の波動として、すなわち重力波として発散される。』
その近くに人間がいれば、聴覚機構が振動することで音として聞くこともできるだろう(その人間が死ななければ)。『重力波は歌う』という書名に「歌うのか?」と一瞬疑問を憶えたが、確かにブラックホールは衝突する際に独特の音色を奏でているのだ(断末魔かもしれないが)。
検出の難しさ
とはいえ、『重力波が地球に届くころには、宇宙の響きは地球三個分ほどの長さが原子核1個分だけ変化するに等しい、微小なものとなっているはずだ。』というように、容易に検出できるものではない。そもそも最初は、「そんなものもあるかもね」「物理現象的にありえなくはない」レベルのものだった上に、"地球1000億個分の距離を髪の毛一本の太さにも満たない幅だけ伸縮させる変化"を観測するにはその存在が予測された当時では考えつかない技術力を必要とする。
2度の重力波観測を成し遂げたレーザー干渉型重力波観測所(LIGO)は1片が4キロメートルの巨大なL字型をした施設で、かかった費用は最終的に10億ドルを超えている。見つかった今だからこそよかったといえるが、妥当な期間内に重力波源(ブラックホールの合体など)が発生していなければいくら理論が正しくても見つからない可能性さえあったのだ。普通の神経では、栄えある科学者のキャリアと莫大な金を無駄と終わるかもしれない事象の研究に賭けることはないだろう。
先に引用した部分に「果敢で壮大な艱難辛苦の営みへの賛辞、愚者の野心に捧げる敬意の証でもある。」とあるが、読み終えてみればこれが誇張とは思えない無謀さだ。本書はこうした「不確定な事象」をめぐり、科学者らがどのように「重力波は検出されていないだけで、存在する」と考え、周囲を説得していったのか。このビッグサイエンス(多額の資金を投入した科学プロジェクト)において、科学者間でいかなる政治的やり取りや確執が発生していたのかを暴いていく。
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