「正職員の6割強」がJAつやまを訴えた意味 立場の弱い労働者は権利をどう行使できるか
第2のポイントは、仲間を集めて行動したということである。
数百人規模の組織で1人や2人が声を上げたとしても、会社からは異分子的な扱いをされ、金銭的に解決したとしても、本人は居心地が悪くなって退職せざるを得ない可能性もあるが、JAつやまでは、訴訟に約220人、3分の2にあたる正職員が参加している。「数は力なり」ではないが、大多数の職員の声を使用者側も簡単にはねのけられない。
退職を前提とするのであればともかく、辞めるつもりはないが残業代の不払い状態を改善したいなど、在職を前提として権利を実現したい場合は、やはり一緒に使用者を訴える仲間を増やすことが重要である。
JAつやまのように労働組合があれば、訴訟にまで至らなかったとしても、労働組合法にのっとって、団体交渉やストライキなどにより使用者に対する意思表示もできる。ちなみに、職場に労働組合が存在しない場合は、2名以上の労働者が集まれば新たに労働組合を結成することも可能である。
いざとなったら訴訟も辞さないという態度も必要
第3のポイントは、権利を実現するために実際に訴訟に踏み切ったということである。
これまで、日本でサービス残業や長時間労働が黙認されていた理由は、日本人特有の勤勉さや、終身雇用による使用者側との信頼関係があるからなどと説明されてきたが、労働者が滅多に訴えないという点も少なからずあるだろう。
日本においては、職業裁判官である労働審判官と民間出身の労働審判員によって、解雇や給料の不払いなど労使関係のトラブルの解決策を探る労働審判の継続件数は、2014年度で3496件。労働関係の通常訴訟が労働審判とほぼ同数といわれており、併せても1万件には達しない。
これに対し、ドイツやフランスでは労働裁判所という専門の裁判所があり、2013年度のデータであるが、ドイツでは年間約40万件、フランスでは年間約17.5万件の審議が行われている。このような数字からも、日本においては労働法上の権利の実現に対し、いかに消極的なのかが統計的にも実感できる。
欧米ではサービス残業をさせれば訴えられるという社会的コンセンサスが成立しているため、労働者がサービス残業を行うことは基本的には無いし、そもそも、残業自体も少ない。私は欧州のある会社を現地で見学した経験があるが、定時退社の時刻になると当然のようにタイムカードを押して帰宅していた。
JAつやまのケースは現時点でどちらに軍配が上がるか予断を許さないものの、使用者に対して立場の弱い労働者が赤ちょうちんで愚痴を言っても権利は実現できず、「いざとなったら訴訟も辞さない」というファイティングポーズを取った意味は小さくない。
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