「正職員の6割強」がJAつやまを訴えた意味 立場の弱い労働者は権利をどう行使できるか

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日本では係長、課長など一定の以上の職制にある労働者を「管理職」と呼ぶため誤解されがちだが、労働基準法上の管理監督者とは、係長や課長などの身分ではなく、「経営者と一体と言える職務内容であること」「出退勤の自由が認められていること」「管理監督者に相応しい賃金が支払われていること」などを満たさないと、法律上は認められない。

「いわゆる管理職に残業代がつかないというのは誤った俗説」と労働問題に詳しい弁護士は口をそろえる。「名ばかり管理職」に対する残業代の不払いは、有名企業をはじめさまざまな職場でも起こっている問題だ。

一方で、このような知識がなければ、「あなたは管理職だから残業代は出ません」と会社から言われたら、労働者としてはそれを信じてしまうか、納得がいかない場合であっても有効な反論ができずに会社の主張に従わざるを得ない場合が多い。

この点、専門家に相談をすると、会社が主張していることが正しくない場合、その理由を法律上の根拠をもって示してくれるので、客観的に、自信を持って自分の権利を主張できるようになる。

専門家を活用することが有効に作用する

また、JAつやまの裁判でも請求がなされているが、悪質な労働基準法違反の場合は、懲罰的賠償の一種である「付加金」も請求できる。専門家でなければ見落としてしまうような視点からのアドバイスを得られることも付加価値であろう。

そして「具体的な権利の実現方法」を知ることができるというメリットがある。いくら「自分には残業代を請求する権利がある」ということが分かっても、それを実現することができなければ、権利は「絵に描いた餅」になってしまう。

残業代の請求においては、タイムカードと賃金台帳を証拠として裁判所へ提出し、勤務実績があるにもかかわらず、残業代に反映されていないということを主張するのが一般的な訴訟の流れだ。

この点、JAつやまの案件では、弁護士がタイムカードや賃金台帳の開示をJA側に要求し、過去2年分のデータの開示を受けられたということであるが、職員が要求しただけでは開示に応じなかったかもしれない。

弁護士は「証拠保全手続」という民事訴訟法の手続を知っているので、万一、弁護士経由で要求しても会社が任意にタイムカードや賃金台帳を開示しない場合は、いざとなれば裁判所に働きかけて、執行官を会社に立ち入らせ、強制的にこれらの証拠書類を押さえることができる。

あるいは、民事訴訟法上の「文書提出命令」という申し立てを行ったうえで、その後もタイムカードが開示されなければ、「やましいことがあるから被告はタイムカードを提出できないのだ」という主張をすることで裁判官の心証を形成し、タイムカード以外の状況証拠や労働者の記憶から勝訴判決を導くという法廷技術も弁護士は持っている。

このように、労働関係のトラブルでは、「使用者の言い分は法的に正しいのか」「力の差がある使用者相手にどのような手順で権利を実現すべきか」という2つの観点から、弁護士などの専門家を活用することが有効であると考えられる。

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