「EU離脱ドミノ」は本当に起きてしまうのか 「英国EU離脱」と「リーマン」の違いとは?

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一方、「EU離脱ドミノ」だけでなく、英国内からもスコットランドが独立してEUに参加しようとする動きも出てきている。しかし、これも非現実であるといえる。

スコットランドが独立してEUに加盟するということは、EU離脱を決定したイングランド、ウェールズ、北アイルランドとの取引において関税等が掛かるようになるということだ。さらに、仮にスコットランドが英国から独立してEUに加盟することになれば、イングランド銀行が発行するポンドではなく、共通通貨ユーロを採用することになるはずである。

ということは、スコットランドと、イングランドなどEU離脱を決定した旧英国との間では、関税と為替リスクが生じるということになる。しかも、英国のEU離脱によってポンドが対ユーロで値下がり(ポンド安)になるとしたら、スコットランドから旧英国への輸出は減る可能性が高い。

「EU離脱ドミノは広がらない」と気づく瞬間が来る

さらに、スコットランドがユーロ採用国になるということは、旧英国との貿易において、他のEU諸国をライバルに回す危険な選択でもある。

英国EU離脱決定に備えて、主要国は為替市場でポンドが急落した場合の対応を協議していた。しかし、事前協議では、英国側が協調介入でポンドを買い支えることに難色を示したことが報じられている。これは、英国が「政治ショック」による経済的打撃を、自国通貨ポンド安によって和らげることを考えていることを示唆したものである。

もしスコットランドが英国から独立してEU及びユーロに加盟した場合、英国とは反対に、ユーロ高のリスクを背負い込むことになる。

こうした現実的な問題を抱える中で、スコットランド国民が本当に英国から独立してEUに加盟するという選択をするのは、可能性として高くないと思われる。

スコットランドが大英帝国の一員としてEUに残留するということと、英国から独立してEUに加盟するということは、EUの一員であり続けるという点では同じかもしれないが、金融・経済的に全く異なることになる。

英国のEU離脱ショックは、最もEUから離脱しやすい国が起こした「政治ショック」だといえる。噂としての「EU離脱ドミノ」は広がる可能性はあるが、「水は低きに流れる」ということを考えると、最もEUから離脱しやすい英国で起きた「EU離脱」が、より離脱が困難な国に広がっていき「EU離脱ドミノ」を招くという見方には懐疑的にならざるを得ない。

しばらくは「EU離脱ドミノ」が金融市場を動かす主役になるかもしれない。だが、金融市場が「EU離脱ドミノ」がいつまでも主役を張り続けることは出来ないということに気付くまで、それほど長い時間を必要としないはずである。

近藤 駿介 金融・経済評論家/コラムニスト

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こんどう しゅんすけ / Shunsuke Kondo

1957年東京生まれ、早稲田大学理工学部土木工学科卒業後、総合建設会社勤務を経て、31歳で野村投信(現野村アセットマネジメント)に入社。株式、債券、先物・オプション取引等を担当した後、野村総合研究所に出向しストラテジストとして活躍。再び、野村アセットに戻ってからは、担当ファンドが東洋経済の年間運用成績第2位に選出されるなどファンドマネージャーとして活躍。その他、運用責任者として、日本初の上場投資信託(ETF)である「日経300上場投信」の設定・上場を成功させ、1996年に野村アセット初のプロフェッショナル・ファンドマネージャーとなる。現在は金融や資産運用に関する客観的な知識を広めるべく、合同会社アナザーステージを立ち上げ、会長兼CEOとして、一般向けの金融セミナーや投資セミナーなど専門家向けセミナー等も開催中。自身が手掛けるメルマガ『マーケット・オピニオン』は、個人投資家から圧倒的な支持を得る。

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