「元気」で「長生き」できる都道府県はどこか? 「長寿=健康」とは限らない、これだけの理由

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男女とも平均寿命1位の長野県は、気分障害(うつ)の受療率2位(※平成26年患者調査による)、足腰・肩の痛みの有訴者率3位(※平成25年国民生活基礎調査・総務省統計局人口推計による)と意外に高い。あくまで推測だが、長野の健康寿命を延ばすにはこの2つの数値を下げる必要がありそうだ。

健康で長生きするなら静岡か山梨?

では、長寿かつ健康寿命も長い都道府県と言えるのはいったいどこか? 健康寿命と平均寿命の全国ランキングを見た時に、もっともバランスが取れているのが静岡県と山梨県だろう。静岡は健康寿命が男性3位、女性2位で、平均寿命と健康寿命の差、いわゆる「不健康期間」が男女ともに比較的短い。また、山梨県は健康寿命で男女ともに堂々の1位、前回の2010年の調査では男性5位、女性12位だったが、大きくジャンプアップした。

確かに両県は、疾病の罹患率や死亡率、その他の健康状態を示す指標をほかの都道府県と比べると低い傾向にあり、県民の健康度は高そうだ。ただ、健康と寿命を左右するのは疾病やその発生原因となる生活習慣だけではない。興味深い大規模調査がある。静岡県内の74町村の高齢者(65~84歳)、2万2000人を9年間に渡って追跡調査した「静岡県高齢者コホート調査」だ。

この調査では、①1日合計30分以上の歩行をしたか(運動要因)、②肉・魚・大豆製品・卵などを含むおかずを食べたか(栄養要因)、③町内の作業・ボランティアなどの地域活動に参加したか(社会参加要因)――という3要因の状況を定期的に追いかけて、死亡率との関連性を調べた。その結果、「運動と栄養」要因の2つを満たした人の死亡率は、3要因がない人に比べて約3割も低かったうえ、そこに「社会参加」が加わると実に死亡率が半減するということがわかったという。

無視できない絆の効果

調査結果に照らし合わせて考えると、静岡と山梨の健康寿命が長いことに理由付けが可能になる。静岡県は高齢者の就業率が男女ともに、都道府県間でトップ5に入る。ボランティアなど社会活動が盛んな地域であることもよく知られている。さらに、気候が温暖で日照時間が長く、ウォーキングやラジオ体操など運動による社交的な活動もしやすい。

一方、山梨県には地域住民が参加して食事や会話、旅行などを楽しむ「無尽(むじん)」と呼ばれる独特の習慣がある。鎌倉時代に始まった庶民間の融資制度が発端だが、現代では金融機能の側面は失いながらも、若者から高齢者まで仲良しでの定期的な集まりとして受け継がれている。こうした「絆」を大事にする風習も健康寿命の延伸には欠かせないと言えそうだ。

医療技術の進化などで、今後も日本人の平均寿命は延びていくことは必至。だが健康寿命をそれ以上に延ばして不健康な期間を短くすることは、医療費など社会保障費の削減にも直結する。わが国も、国民健康づくり運動「健康日本21」などで、「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」を掲げて取り組みを強化している。いかに健康を維持しながら、「ピンピンコロリ」と穏やかに死んでいくか――。長寿大国ニッポンの大きな課題ともいえよう。

高見 和也 東洋経済 記者

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たかみ かずや / Kazuya Takami

大阪府出身。週刊東洋経済編集部を経て現職。2019~20年「週刊東洋経済別冊 生保・損保特集号」編集長。

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