NATOは、プーチン大統領をどう苛立たせたか

ロシアへの軍事的圧力を一気に強化している

ウクライナの場合、NATOは煙幕だ。この旧ソ連構成共和国のNATO参加は、決して真剣に議論されたことはなかった。また、ロシア侵攻前に行われた世論調査では、ウクライナ人の5人に1人しかNATO加盟を支持していなかった。

2008年にウクライナとジョージアのNATO加盟への道筋をドイツとフランスが阻んだとき、NATOは事実上、ロシアに屈服した。その数カ月後、ロシアは、ジョージアの2つの分離独立地域を占拠。後のクリミア併合と、東ウクライナでの2つの傀儡(かいらい)政権誕生に向けての前哨戦とした。NATO加盟が認められるためには、申請国はいかなる領土紛争問題も抱えてはいけないことになっている。

ドイツが進めたNATOの東方への拡大

1991年のソ連崩壊後、NATO拡大を推進したのが統一ドイツだったことは忘れがちだ。悪魔のようなペンタゴンの陰謀論とはまったく異なり、この問題は大西洋の両側で熱く議論された。冷戦後の西側の勝ち誇った態度に失望しながら、当時のゴルバチョフ旧ソ連大統領は、西側がNATOを拡大しないと約束したことを「神話」と呼んだ。

40年以上も冷戦の前線に位置していたドイツは、できる限り東側へNATOの安全保障バブルを拡大したがっていた。西側は、東欧で誕生した独立国家が安定的で豊かな民主主義体制に移行することについて、ロシアも共通の関心があるとの甘い想定で動いていた。実際のところ、プーチン大統領が登場する以前から、西側に組み入れられたり、ロシアの手本となる可能性のない、弱体化して分裂した腐敗国家による緩衝地帯をロシア政府は好んでいた。

「拡大」はNATOの趨勢を表現するのに最適な言葉ではない。なぜなら、それは1999年以降加盟した東欧12カ国が、多少なりとも受身的に関わったとも受けとれるからだ。第2次世界大戦後、ソ連の影響下にとらわれながら、ポーランドとリトアニア、チェコ、ハンガリーは自らの最良の保険契約を選んだ。結局、NATO加盟という決断は、自国を自力で守ることができず、中立も選択肢にない民主的な主権国家によって下されたものだ。

ロシア政府は西側との対立を運命づけられていたわけではない。ロシアは西欧諸国と2世紀以上も同盟関係にあった。2000年、初めての大統領選に立候補したプーチン大統領は、NATOを敵とみなしたり、同等の立場からNATOに加盟する可能性を排除したりしないと述べた。「同等の立場から」という言葉は今日、プーチン氏の怒りを理解するためのカギとなる。

ロシア政府からすれば、好敵手とみなされるよりも無視される方がはるかに問題だ。不幸にも、プーチン氏の台頭は、敵味方双方の感情を完全に無視するジョージ・W・ブッシュ政権時代と重なっている。プーチン氏の働き掛けは拒絶された。ブッシュ政権の軍事一国主義に対して、国連安全保障理事会の理事国、主要8カ国(G8)、NATOロシア理事会のメンバーとしてのロシアの地位は、役に立たないことが分かった。

当時のブッシュ政権の東欧に対する関心はおもに、イラク戦争での「有志連合」に参加した国々に対し、NATOへの加盟を認めたり、中東から飛んでくるミサイルの迎撃システムの一部配備の約束をしたりして、見返りを与えることにあった。

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