ITが人間に牙をむく ITのプロが警告する、日本企業の新たな病(下)
こんな時代には、やりながら考えるしかない。何が大事かといえば「ノリ」です。ノリがないと、すべての議論はやらない方向に行く。組織がIT中毒に冒されていたら、やらない議論ばかりになります。重篤な会社は、ロジカルにほとんどやらないほうに議論がいく。「やってみよう」とならない。「忙しい、忙しい」と現場に行かない。
ITほど安心、安全のタガが外れたモノはない
――やらないのは楽ですから。
そうです。易きに流れる。感度が高い経営者は、そこに異常な危機感を持っています。体質を変えなければならないのに、ITが「あらゆる面で」「あらゆるところで」「あらゆるときに」企業の体質なり思いなり意識を劣化させている。
工業製品と呼ばれるものの中で、ITほど安心、安全のタガが外れているモノはないですよ。食品とか自動車などの工業製品は、厳格な法規制があるのに、ITにはそれが不足しすぎている。パチンコよりも賭博性が高いことが野放図にされたり。明らかに依存症という疾病が巻き起こされることが分かっているのに利用制限もなかったり。これは無法地帯。ワールドワイドに広がったネットワークは国の法律を超えている。社会においても曲がり角にきていると思います。日本はとくに深刻です。
私はIT業界にいますが、もういくら私たちでも野放図にもっともっとITを使ったほうがいいというアホなメッセージはもう無理。無理だしやっちゃいけない。人間が生み出したすべてのテクノロジーは油断と慢心によって、人間に牙をむいてきます。古代をたどれば、人間は火を起こせるようになって生活を便利にしましたが、同時に火災が起こるようになりました。産業革命は公害を、自動車の普及は交通事故を生み出しました。
ITもいよいよ牙をむいているワケです。もちろんITがなければ、とくに大企業はやっていけません。不可欠な存在です。しかし、副作用もあるのです。これまでは、とにかく新しいモノを採り入れて、もっと使うということがメリットだと言ってきましたが、そうではなくなってくる。
ITは食べ物に似ています。食べ物でも「体にいいもの」だと過剰摂取したり、バランスを欠いた摂取をしたりすると、いろんな疾患になり、やがては大病になる。脚気、痛風などがそうです。健康体でなくなってくる。
だけど自覚がない。新しい食べ物が出るとすぐに腹一杯食べる。でもカロリーが高すぎて病気になっている。そういう状況です。ITは人間にとっての食べ物と同じで、ないと困るが付き合い方が大事です。賢く、時には注意して使わなければならなくなっている。