サムスン3代目の経営手法に「注文」が殺到 韓国の経営学者5人の採点簿は?

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李会長は2002年に経営陣に「ジェット機が音速を突破しようとするなら、設計図からエンジン、素材、部品まで変えてようやく可能になるように、超一流企業になろうとすれば、体質と構造を根本的に変えるべきだ」と繰り返し述べていた。イ・ギョンモク教授は「李副会長の最大の成果を経営学的用語で説明するなら、事業構造の最適化(optimization)になる。サムスンが世界的に戦える事業に集中するという方向性をはっきりと示したもの」と述べた。

最適化は、李在鎔副会長が最近、私的な場所で明らかにした経営哲学とも一致するキーワードだ。李副会長はある米国人経営者との食事中に、グループ会社の売却について質問されると、こう答えたという。「会社を売るという話はしない。各会社に最高の主人を探そうというものだ」(I would not say I'm selling the business. I would say I tray to find the best owner for that business)。

さらに言えば、「サムスンが世界トップに育てることができないグループ会社であれば、サムスンが最高の主人ではない。その会社をさらに育てることができる主人を探すことが、その会社にとっても、サムスンにとってもいいことだ」。

高速の事業最適化に高い評価

李副会長は実際に売却されたグループ会社の役職員に対し、「当面はサムスンの傘の下にいるという安堵感とプライドを感じるかもしれないが、長期的にはその会社を育てることができる主人を探すのが役職員にとっていいことだ」と述べたこともある。

李副会長が言う最適化のスピードはなぜ早いのか。学者らは「李副会長が組織改編に関する動きを止められない環境にあるため」と説明する。ある事業を始めて、それがカネになれば、高成長時代には大企業グループの「たこ足式経営」を選択することが当然だ。だが、世界トップにいる企業だけが生き残り、グローバルな競争が熾烈になる低成長時代では、規模を縮小して選択と集中を行わざるをえない。

ソン・ジェヨン教授は「高度成長期には多様な事業を行い、売上高を積み上げ、収益を上げるのが重要だが、今はそんな戦略が通用しない。金銭的な投資はもちろん、時間、労力の投資も成長可能性が高い事業に集中させてこそ、効果を上げることができる時期だ」と言う。

産業基盤がほとんどなかった1930年代に現在のサムスンを創業した故・李秉喆(イ・ビョンチョル)会長は「事業報国」を核心理念としていた。また、一流企業へ成長するために「革新」を言い続けた李健煕会長の「マッハ経営」哲学が、ともにその当時の時代を反映していたように、李副会長の「オプティマル経営」もグローバルな競争で生き残るための、避けがたい選択だということだ。

ソン・ジェヨン教授は、売却作業の速度を上げていることについて、「韓国経済が長期不況に陥る可能性があることと強く関係している。主力事業へ選択と集中をしなければ、低成長時代にグローバルな競争ができない」と分析する。

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