「保育園建設反対」議論に違和感を感じる理由 単一機能しかない街に未来はあるのか

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だが、目の前の問題だけに夢中になるのではなく、一度、自分が住む街の将来について考えてみる機会があっても悪くはないだろう。「消滅可能都市」という言葉が生まれ、少子高齢化を身近に感じるようになった今、本気で資産価値を考え、自分の住む街を生き残らせたいのであれば、これまでにないことを考えてみても損はない。

ところで、保育園建設反対の報道を目にするたびに思い出すことがある。マンション建て替え問題である。

マンション建て替え問題も根っこは同じ

建て替えの動議があると、それ自体に反対するわけではないものの「私が死んでからにしてほしい」という声が必ず出る。だが「私が死んでから」では、その時点の住民全員が亡くなった後でなければ建て替えはできないことになる。

それとはまったく逆の話を、港区白金のマンション2棟という極めて難易度の高い共同建替えのケースで聞いた。建て替え案が出た時点で90歳超だったある人が先頭を切って賛成。「本当は反対したい。でも高齢者が、自分が死んでからと次々に言い出したら計画は止まってしまう。だから、賛成するよ」とおっしゃったそうだ。

自分が建て替え後の新居に戻る可能性が小さいことを知りながら賛成した胸中を思い、関係者は奮起。10年をかけて建て替えを成功させた。その人は完成を見ることなく亡くなったが、竣工を祝う会に出席した人たちは口々にその人を称え、思い出話をした。

マンションの場合と違って街の中での1人の存在は見えにくいが、基本は同じだ。それぞれが自分の利益だけを追求するのではなく、広い視野と長い目で街の資産価値を考えることができれば、色々なことをより柔軟に受け入れることも可能になるかもしれない。保育園の問題を短期間的な住環境の問題と捉えず、街の将来を見据えた議論と対話が行われることが望まれる。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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