「松陰神社前駅」は、いったい何がスゴイのか 老舗煎餅店が世田谷線沿いの街を選んだワケ

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新しい店の増加は古くからある、あまり愛想の良くなかった一部の店の意識も変えた。自分の街が雑誌やテレビで取り上げられてうれしくない人はいない。取材時の笑顔が日常になり、商店街全体の雰囲気はずいぶん変わった。

そうした変化や人が松崎煎餅をして、長く商売ができる街と判断させたわけだが、将来に向けては課題もある。

「松崎煎餅が来たことで、これまで家賃にあまり頓着なかった大家さんたちが家賃を気にするようになりました。実際、この5年でも賃料の坪単価で2000円~3000円ほど上昇、1万2000円~1万5000円ほどに。それでも、空き店舗が出るとすぐに決まるようにもなっており、松陰PLATも一区画に7~8件の申し込みがあります。ただ、今後も人気が上がるなら、もっと賃料を取りたいと思う大家さんが出てくる。そこで賃料が上がりすぎると若い人が入ってきにくくなる。それが心配です」(佐藤氏)

長くビジネスが続けられる街とは

また、高齢の大家の中には若い人たちが古い建物を良しとしていることを理解せず、建物を新しくすればもっと賃料が取れると勘違いし、古い風情のある建物をどこにでもあるような新築に建て直す例も出てきているようだ。今後は大家のリテラシーを上げて行く必要があるだろう。

国士舘大学や東京農業大学が近くにあることや、三軒茶屋より賃料が安いことから18歳の人口流入は高いものの、30代での流出が増えるという問題点もある。カップル、ファミリー向けの賃貸物件が少なく(あっても賃料が13~14万円以上と高い)、住み続けられないのである。複数戸のワンルームをファミリー向け住宅にリノベーションするなど模索はされているが、開発の進んだ狭いエリアのため、住宅を増やすには難しさもある。

が、松崎氏が言うとおり、この街では誰か一人ではなく、複数の人たちがそれぞれの立場から街にかかわっており、鈴木氏のように自立して街を盛り上げる活動をする人たちがいる。佐藤氏いわく「キーパーソンがやっている街はその人がいなくなったらダメになる。でも、ここは違う」。人が集まっても店舗がころころ変わる街が多い中、長く確実にビジネスを続けていける街の条件とは何なのか。松蔭神社前から学ぶことは多い。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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