「松陰神社前駅」は、いったい何がスゴイのか 老舗煎餅店が世田谷線沿いの街を選んだワケ

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アリクがある「共悦マーケット」なるアーケード商店街もこの街らしい。道を挟んで店舗が並ぶが、実は私有地。大家さんが「面白そうなことをやりそうな人たち」に貸しているそうで、ここ最近は店主が若返り、夜遅い店も増えて人が集まるようになっている。

そしてもう一人、この街を変えている立役者が、1937年に石炭を扱う会社として創業、現在は不動産業も手掛ける松陰会舘の三代目、佐藤芳秋氏だ。同社は新潟から上京、風呂屋の三助から始めて一代で財を成した佐藤氏の祖父の案によるもので、社名は人が集まる場所をイメージしたのではないかと佐藤氏。10年前に輸入雑貨業勤務から入社して以来、その創業の思いを継いだ仕事をしようと考えてきたという。

個店出店の勢いがこのところ、加速していると佐藤氏は話す

その思いを具現化しようと2010年、創業50周年を機に自社ビル2階にコミュニティスペース「Shoin style」を作った。

60㎡弱ほどのキッチンなどがある空間では、地元の人たちの手によって料理やヨガ教室などが、多い月には10数回以上開かれている。前述の廣岡氏がイベントや蚤の市で利用している空き地も、松陰会舘が管理する土地で、佐藤氏も蚤の市運営に携わっている。松崎煎餅だけでなく、そのほかのこの街の「顔」となっている店の仲介を手がけたのも松陰会館である。

松陰神社はなぜ一気に盛り上がったのか

また、2015年には世田谷区の中央部を「世田谷ミッドタウン」と名付け、エリア情報を発信するメディア「せたがやンソン」を作り、2016年4月には急世田谷線沿いに築50年のアパートをリノベーションした商業施設「松陰PLAT」を開業した。

建物1階に設置された黒板。施設からのお知らせ、イベント情報などが掲載されている

扉のないオープンな店舗など、店と客だけでなく、通りがかりの人も巻き込んだコミュニティとなることを意図しており、工事中から敷地前に黒板を設置。工事の進捗状況だけでなく、月一回のイベント情報を告知してきた。入居しているのも、地元にゆかりがある、客とのコミュニケーションを大事にする店を選んだという。

面白いことに鈴木氏、廣岡氏、佐藤氏が街に関わり出したのはほぼ同じタイミングで、佐藤氏によるとこれは商店街の世代交代の時期にあたる。

「松陰神社前の商店街は現在50~60歳台の2代目が中心で、その人たちが代替わりしたのがちょうど数年前。比較的新しい商店街なので、若い人を応援する気風がある。三軒茶屋より賃料が安く、月額15万円くらいの予算で場所を借りられるとなれば、店を出したい若い人が増えるのは当然かもしれません」(佐藤氏)

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