「松陰神社前駅」は、いったい何がスゴイのか 老舗煎餅店が世田谷線沿いの街を選んだワケ
nostos booksは多方面から取材を受ける人気店で、しかも、店の人が取材に来た人たちを鈴木氏に紹介してくれる。さらに、鈴木氏がまた別の人に紹介する、といった循環が生まれ、街に顔見知りや知り合いが加速度的に増えることとなった。
その人と人とのつながりが、さらに街を変えていった。「東京ではステイタスとして住んでいる街や建物の自慢をすることはあっても、街に友人がたくさんいて居心地がいいから、ここがいいよということは少ない。でも、この街がほかの街と劇的に違うのは人と人とのつながりがあること。顔見知りがたくさんいてオープン。過度に干渉せず、居心地がいいんです」(鈴木氏)。
パン好きをうならせる街
nostos booksが成功したこともあり、鈴木氏には地元の不動産会社や店を出したい人からの相談が増えた。結果、松陰神社前にはほかにも鈴木氏が紹介した店ができており、中には行列店となった焼き菓子の店、メルシーベイクなどもある。ちなみに松陰神社前は、予約で売り切れるという幻のパン、「世田谷パン」で知られるブーランジェリースドウや、1912(明治45)年創業のニコラス精養堂、山梨県産小麦を使ったパンが人気のフォルトゥーナなど、パン好きをうならせる名店も多い。
さて、そんな知る人ぞ知る街となった松陰神社前に2年前、オイスターバー、アリクを開いた廣岡好和氏もまた、この街を面白くしているキーパーソンの一人である。煎餅八代目に松陰神社前出店のきっかけとなる情報を流したのはこの人だ。
千葉出身の廣岡氏がこの地に住み始めたのはちょうどSTUDYができたのと同じ時期。上京後住んでいた国道246号沿いのざわざわした雰囲気に馴染めず、なんとなく住み始めたのが松陰神社前だった。
住んでいるうちにゆったりとした時間の流れ方、コンパクトな街ながら欲しいものが揃う居心地の良さにひかれ、ここで子どもを育てようと決めた。わが子が育つ街ならもっと面白い街にしたいと、空き地や空き店舗を利用してイベントや蚤の市を始めた。
街の人とさらに交流を深めたい、と始めたのが現在の店。店内の大きなコの字型のカウンターは廣岡氏がオーダーして作ってもらったもので、お互いの顔が見えることもあって客同士の会話も弾む。地元の飲み屋は街の人間関係の要となる大事な存在であり、ムードメーカーでもある。店の前で野菜が売られていることもあり、店で飲食しない人にとっても、アリクは街で人が会う場所になっている。
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