「松陰神社前駅」は、いったい何がスゴイのか 老舗煎餅店が世田谷線沿いの街を選んだワケ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

だが、20年前、私が近隣に住んでいた時にはこうではなかった。昔ながらの店はあり、買い物客は来ていたものの、商店主たちの多くははっきりいって愛想が悪かった。今でも覚えているのは年末、福引の季節に冷蔵庫を買ったとき、「よそ者には福引券は渡せない」と言われたことだ。

そんな典型的な「内向き嗜好」な街が大きく変わったのは、2010年に駅前に出来たカフェSTUDYを手がける鈴木一史氏の存在が大きい。カフェを始めようと場所を探していた同氏はインターネットで現在の店舗を見かけ、初めてこの街へやってきた。

「渋谷、原宿などでない、人がまだやっていないところでやろうと1年ほど探していたものの適当な場所がなく、たまたまやってきたのが松陰神社前。降りてみたら意外に便利だし、住んでいる人も多く、同年齢もいそう。商店街もあるし、それに何より、生まれ育った茅ヶ崎に似ている感じがして決めました」と鈴木氏は話す。

「やばい」キャンペーンが奏功

茅ヶ崎と松陰神社前が似ている?

松陰神社前駅そばにあるSTUDYを手がける鈴木氏。地元の茅ヶ崎に似ている点が気に入っている

私には不思議に思えたが、鈴木氏によると何もないけれど、人が楽しそうなところが似ているという。

「茅ヶ崎も含め、湘南って実は何もない。でも、わざわざ都会に出て行かずに地元で遊ぶ。東京での遊びはどこかへ行って何かを買いました、食べましたという消費だけれど、湘南の遊びは自分で生み出すもの。この街にも自分たちで何かを作り出せそうな感じがしました」(鈴木氏)。

だが、喫茶店、飲み屋が1軒くらいずつしかなかった当時の松陰神社前には訪れる人は少なく、カフェは赤字続きで開業から3カ月後には貯蓄ゼロのピンチに。その後も危機は何度か訪れ、そのたびに本業で何とか乗り切ったが、やはり人を呼ばなければ持続可能な事業にはならない、と考えた。そこで、鈴木氏が展開したのは、名づけて「松陰神社やばいキャンペーン」。会う人会う人に、松陰神社がいかに魅力的なのかを語り続けたのである。

ばかばかしいと思う人もいるだろうが、この地道な努力が功を奏した。3年ほど経った2013年、この街に新しく店を出したい、手伝ってほしいという人が現れたのである。鈴木氏はちょうど無くなったばかりの八百屋の跡地はどうだと紹介、そこにできたのがオンライン古書店nostos booksのリアル店舗だった。

次ページ街の人々をつなげる居酒屋の正体
関連記事
トピックボードAD
鉄道最前線の人気記事