「松陰神社前駅」は、いったい何がスゴイのか

老舗煎餅店が世田谷線沿いの街を選んだワケ

松崎煎餅8代目の松崎氏

店探しが具体化したのは2年前。代官山に始まり、中目黒、南青山、広尾などを見たものの、住んでいる人より来街者が多いことが気になった。地元密着の店を目指すからには住民は多いほうが良い。範囲を広げ、蔵前、清澄白河や国立、吉祥寺なども見たが、納得がいかない。気に入っても物件と縁がないなどの状況が続いた。

そうこうしているうちにある日、松崎氏が地元の世田谷区で飲んでいたとき、後に店舗となる場所が空くという話を耳にした。そこで、空き店舗があるならば、と社長である七代目と早速内見。商店街で店をやりたがっていた七代目は「いいじゃないか!」と即決。出店先が決まったのである。

ただ、松崎氏には懸念があった。

世田谷に移り住む前、7年ほどいわゆる「谷根千」エリアに住んでいたのだが、その間個人が小資本で面白いことをやっている街だった谷根千が少しずつ変わっていくのを目の当たりにしたのだ。「家賃が上がったり、大資本が入ってきたりで、街を魅力的にしていた人達の中には離れていった人もいます。どんどん面白くなっていく松陰神社前もそうなってしまわないかと考えました」(松崎氏)。

次の200年を考えた

店を出すからには、家業が続いてきたのと同じ歳月、つまり次の200年を見据えたうえで、ふさわしい場所でなければならない。その観点で松陰神社前はどう映ったか。街、商店街の規模や立地的な条件から大資本が入ってきにくいことはすぐに分かった。しかし、それ以上に決め手となったのは人だという。

「ここにはこの街を大事にし、魅力を変えないようにしたいと考え、活動している方たちがたくさんいますし、街の問題に我がこととして取り組む不動産会社がいる。そのような街だからこそ、安心してお店を作れると思いました」(松崎氏)

老舗の八代目が商売が続けられると判断した街と人は、ほかの地域のそれとどう違ったのだろうか。

松陰神社前の商店街。さほど広くない通りの両側に主に個人店が並ぶ。2階を住居にしている小型店舗も多い

松陰神社前では世田谷通りから松陰神社間に東急世田谷線と交差する形で、生鮮食料品店など地元の人を対象にしたいわゆる近隣型商店街が伸びており、端から端まで歩いても10分ほど。道幅が狭いため交通量が少ないうえ、商店街の店舗がいずれも10坪以下と小さいこともあって、現在でもドラッグストア、コンビニなどを除けば大手資本はほとんど出店していない。一方、ここ数年で若い人が経営するしゃれた個店が着々と増えており、新旧が混じりあった面白さがある。

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