量的緩和はマネーストックを増やせず
日銀は、2001年から量的緩和を実施した。アメリカでも、経済危機以降、量的緩和が実施された。したがって、金融緩和が期待どおりの効果を発揮したかどうかについて、十分な証拠が集められた。上に述べたことを段階ごとに見ていこう。
図で見るように、マネタリーベースは、金融政策によって大きく変動した。すなわち、量的緩和が始まった01年に大きく増加し、終了した06年に減少した。そして、「資産買入等の基金」を創設して新しい形式での国債購入を始めた10年秋から再び増え始め、国債購入額を増加させた11年に大きく増えた。つまり、上記(1)のプロセスは実現したわけだ。
ところが、マネーストックは、マネタリーベースの大変動に影響されず、年率2%程度のほぼ安定した伸び率で増加を続けた。つまり、(2)は実現しなかったわけだ。
これは従来の金融理論の常識に反することだ。従来は、中央銀行はマネーストックを操作することができ、それが金融政策だと考えられていた。その大前提が覆されたわけだ。
(3)の効果が生じるのは、マネーストックが増えるからである。それが増えなかったのだから、(3)で期待されている効果が実現できなかったのも、当然だ。
では、なぜマネーストックが増えなかったのか? 従来の議論は、資金需要が十分あることを前提にしていた。こうした条件下では、銀行は貸し出しを増やす。しかし、いまの日本では、資金需要がないので、そうならないのだ。
ただし、何の効果もなかったわけではない。資金が日本から逃げ出し、円安になった(同じプロセスが今後も働くかどうかは後の回で論じる)。
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