(第3回)チャンスとリスクがビジネスで広がる~CO2が変える企業の姿

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 EUでは排出枠が余った企業と、不足した企業の間で、その権利を売買する「排出権取引」が急拡大しています。CO2には「カーボンプライス」と呼ばれる価格がつき、EUの企業はその動向をにらみながら「空気」の取引や企業活動を管理するようになりました。カーボンプライスは今後、重要な経営指標となるはずです。自社の株価を毎日チェックするように、CO2の価格を見ながら、企業経営を行うことになるでしょう。
 世界では温暖化防止に社会も消費者も動きだしました。社会も消費者も企業に求めるものが変ります。その要求に応じるためには企業は変わらなければなりません。換言すれば、企業は従来型のビジネスモデルを見直し、新しいモデルを再構築する課題に直面しているのです。自社が排出できる枠内で如何に利益を最大化することができるかの競争が始まったのです。

 日本ではまだ法律に基づくキャップはありません。日本経団連が取りまとめる「自主行動計画」に基づき、自主的にCO2を削減することになっています。法的規制に向き合うEUの企業と、自主規制で動く日本の企業と比べて、果たしてどちらが生き残るのか。答えは明らかでしょう。
自分の働く会社が生き残り、自分も地球環境を守りたいのであれば「自分の会社の温暖化がもたらすチャンスとリスクへの対応がどうなっているのか、至急点検してほしい」。このことを私はビジネスパーソンに訴えたいのです。

●企業を取り巻く環境が変わる

 私はこれまで銀行と証券の世界でビジネスを経験してきました。振り返ってみると、企業を取り巻く経営環境、それに基づく企業戦略は、ビジネスの現場で一瞬に変わってしまうものです。特に経営者は必要と思えば豹変します。企業の生き残りが経営者の双肩にかかる以上、当然の事です。とすれば、その下で働く多くのビジネスパーソンも絶えず経営環境の変化に注意を払うのは当然ことです。

 日本でも温暖化対策で潮目が変り始めました。やがて法的規制によるCO2排出の枠も出て来るでしょう。それよりも先に「お客さま」から、突然、温暖化への一段の対応を要求されるかもしれません。消費者の要求がドンと出てこないとも限りません。また、先進的なCO2の排出規制をするEU諸国から「輸出したいなら、同程度の規制をかけるべきだ」と求められる場合もあるでしょう。世界の流れはハッキリしてきました。日本の企業もビジネスパーソンもこうした動きに早く対応すべきです。できればライバル企業に先んじて。

 今のうちから、それを見越した行動を取っているビジネスパーソンにとっては、大きなチャンスです。挑戦しがいのある、おもしろい時代が始まりました。ビジネスが引き起こした温暖化に対して、ビジネスが歯止めをかけ、地球の未来を救う。まさにビジネスパーソンにとってこんな生きがいのある仕事はないのではないでしょうか。

末吉竹二郎(すえよし・たけじろう)
国連環境計画・金融イニシアチブ(UNEP・FI)特別顧問。日本カーボンオフセット代表理事。1945年1月、鹿児島県生まれ。
東京大学経済学部卒業後、三菱銀行入行。ニューヨーク支店長、同行取締役、東京三菱銀行信託会社(ニューヨーク)頭取、日興アセットマネジメント副社長などを歴任。日興アセット時代にUNEP・FIの運営委員会のメンバーに就任したのをきっかけに、この運動の支援に乗り出した。企業の社外取締役や社外監査役を務めるかたわら、環境問題や企業の社会的責任活動について各種審議会、講演、テレビなどを通じて啓蒙に努めている。
著書に『日本新生』(北星堂)、『カーボンリスク』(北星堂、共著)、『有害連鎖』(幻冬舎)がある。
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