当たり前ですが、国道や河川、防衛施設などは売買されません。ですから、「有形固定資産」は182兆7000億円ありますが、この額がすべてこの価値になるわけではないのです。ちなみに、「これらの価格は過去の事業費累計などから推計されており、売却価格ではありません」との注記があります。貸借対照表上の価格を上回るものもあれば、そうでないものもあり、いずれにしてもすぐ売れるものは少ないし、それほど売る気もないということでしょう。
3つ目は、「出資金」がすべて回収可能とは限らないということです。出資金とは、独立行政法人、国立大学法人、国際機関などへ出資したお金です。企業会計では、有価証券等に関しては時価会計処理を行っているため、上場しているものに関しては、回収できるかどうか分かります。
しかし、国の場合は出資先のほとんどが独立行政法人ですから、出資金がどれだけ不良債権化しているのか分からないのです。いずれにしても、売却する意向はほとんどないでしょうし、買い先もほとんどないでしょうから、売れない資産であることには変わりありません。
以上、国の資産を合計しますと625兆1000億円にも上りますが、内訳を見ますと価格的にも不明瞭な部分が多いことを認識しておかなければなりません。
「負債の部」には、将来払うべき年金は計上されていない
「負債の部」にも、企業とは異なった方法で計上している項目があります。それは、「公的年金預り金」です。負債の部の中でも123兆9000億円と大きな額になっていますが、企業会計と同じ基準で計上しますと、もっと大きな額になると考えられるのです。
企業会計では、負債の部の「退職給付引当金」という項目で、将来支払う必要のある退職一時金や退職年金を時価評価して計上しなければなりません。国のバランスシートにも「退職給付引当金等」という項目がありますが、これは公務員の退職手当等しか含まれていませんから、国が管理している国民年金や厚生年金については「公的年金預り金」を見る必要があります。
しかし、この「公的年金預り金」は、将来支払わなければならない金額は計上されていません。つまり、企業会計で考えると将来国民がもらう年金額も計上しなければならないのですが、国のバランスシートにはその額が含まれていないのです。
年金を支払っている人たちが将来もらう年金は、実際どのくらいあるのでしょうか。私は、1000兆円ほどあるのではないかと推計しています。もし、これをバランスシートに計上しますと、膨大な額になってしまいますね。
もちろん、これから徴収する分もありますから、政府はそれで相殺しようと考えているのかもしれません。しかし、今の状況では、不足分すべてを保険料で徴収することはできないでしょう。
保険料で徴収しようと考えると、日本の未来を背負う子どもたちに、途方もなく大きな負担をかけることになってしまうからです。実際基礎年金(国民年金)の半分は国庫負担として一般会計からねん出されており、それらの会計処理が貸借対照表上では不明瞭なままとなっています。
いずれにしても、現状を正確に把握するために、政府は一度、企業会計並みの徹底した開示を行うべきです。急速に少子高齢化が進む中、このような不十分な年金会計で大丈夫なのかと強い不安を覚えます。
最後に「負債と資産の差額」を見ますと、マイナス417兆7700億円。つまり企業会計で言いますと、純資産はまったくないという状況です。債務超過です。先に説明した、将来の年金の国庫負担分などを入れると、この債務超過分はさらに膨らむでしょう。
これが企業でしたら、倒産しているとまでは言いませんが、完全に債務超過で、大きな問題があることは明らかです。いずれにしても、この大きな金額は国民が将来的に負担しなければならない可能性があるということです。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら