渡邉:掛け算で付加価値が上がるという話は、とてもよくわかります。僕も最初に新聞記者をした後に、コンサルタントをやったので。新聞記者とコンサルタントはまったく違う職業なので、再就職ではものすごく苦労しました。転職の際は、10社以上落ちて、やっと最後の1社に引っかかったくらいなんですよ。
ただ、藤原さんは、30代後半から40代前半にかけて、ロンドン大学ビジネススクールの客員研究員を務めたり、リクルートでフェロー制度を作り、自ら第一号のフェローとなったり、キャリアの途中でじっくり考える時間があったわけですよね(注:フェローとは、客員の意味。専門性を活かし、年俸制で会社と対等のパートナー関係を結ぶプロフェッショナル契約)。
藤原:確かに考える時間はあった。時間が稼げた。
渡邉:ただ、ほとんどの民間企業では、フェロー制度はありません。その人たちは、どうすればいいんですか。
藤原:それは、すごくいい質問。欧米の先進国には、そういうことを考えるための場所が2カ所あるんですよ。
一つ目は、大学。大学がキャリアの踊り場になっている。大学にいったん戻って、技能をブラッシュアップして、修士号をとってから次の場に出て行くことができる。教授陣も、大学はそういう準備期間としての場だと認識しているわけです。
もう一つの場所は、教会。ビジネスの勝負で負けて、全財産を失ってしまったときには、地域コミュニティにある教会に駆け込むことができる。
渡邉:教会は何をしてくれるんですか?
藤原:とりあえずボランティアで手伝いをすれば食える。
渡邉:飯を食わしてくれるんですか?
藤原:そう。教会では、ホームレスに炊き出しをやっているから。極端な言い方をすれば、負け犬が傷を癒す場としての教会がある。そして、その教会に対して、ビジネスに成功した勝ち組の人が、巨万の富を寄付する。そういう、お金の流れが構造としてあるわけですよ。
たとえば、ラスベガスですごく羽振りの良かった人が、ギャンブルで負けて破産してしまった後に、裏町の教会から人生をやり直して、また成功する――そんな話が本に出ているくらい。アメリカでは、そういうバカなことも起きますよね。でも、日本ではないんだよね、人生の“踊り場”が。