債券投資家と日銀の「不適切な」政策 市場動向を読む(債券・金利)

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このように見てゆくと、中央銀行がマネタリーベースの量を通じて為替水準を自由に決定できるという考え方は極めて安直なものであることが分かる。日銀がこれ以上市場からの資産買い入れ額を増やしてマネタリーベースを拡大しても、それ自体が果たして為替市場ひいては実体経済にどの程度本質的かつ持続的な影響を及ぼせるのかは疑問である。

長期金利の押し下げは金融システムを脆弱化

しかし、一つの思考実験として、日銀がFRBのようにツイストオペ(市場から長期債を買って短期債を売却する金融政策)に踏み切り、マネタリーベースの伸びとは関係なく10年債金利を現在の0.7%台から短期金利並みの0.1%近辺まで低下させ得たとしたらどうだろうか。

生保や年金といった機関投資家は、日米の長期金利格差の拡大を受けて、国内債を売却して外国債などにシフトするかもしれない。

そうなれば、市場で円売りドル買いが起こり、円安の動きがある程度促されるだろう。金融政策によって円安を目指すということであれば、量的な拡大ではなく徹底的に金利政策を追求することによってそれをある程度実現することはできるかもしれない。

しかし、日銀がツイストオペによって長期金利を強引に押し下げた場合、銀行は生保や年金と違ってリスク管理上の制約から外貨資産の保有をそれほど増やせないため、債券投資から得られるインカム収益の大幅な低下に直面することになるだろう。銀行の収益悪化は、長期的には日本の金融システム脆弱化という重大な副作用をもたらすことになる。

そういった副作用を回避するためには、日銀が長期国債を大量に購入するのではなく、政府が市場で直接ドルを購入して円を売却する「為替介入」を行う方が本来はるかに健全である。

しかし、現実には、「為替介入」は米国や欧州などの政府の同意が得られなければ容易に実施できないため、副作用発生のリスクを敢えて冒しても日銀の政策によって為替に影響を及ぼそうと政府は考えつつあるのかもしれない。

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