債券投資家と日銀の「不適切な」政策 市場動向を読む(債券・金利)

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まず、第一に、為替水準が2国間のマネタリーベースの比率で決定されるという一見して「実証的」とも見える分析結果の誤りである。マネタリーベースの比率と為替水準は確かにある期間においては連動しているように見えるが、実は長期的に見て、最もドル円相場の動きを安定的に説明できるのは、日米の金利差である。

日本のマネタリーベースが相対的に多い時期は米国の好況期で、金融引き締めが行われているため米国の金利水準が相対的に上昇している。

インフレ率が高く経常赤字国でもある米国では、長期金利のボラティリティが高く、世界経済の好況期には金利の上昇幅が日本よりも大きくなるためドル高になりやすく、不況期には逆の現象が起きやすい。

マネタリーベースの相対比率は、そういった日米経済の特徴を表す一断面に過ぎず、このデータをもって中央銀行が自由に為替水準を決定することができると結論付けるのはあまりにも恣意的な議論である。

量的指標の概念自体が非常に曖昧

中央銀行がマネタリーベースの量を変動させて自由に為替水準を決定できるという議論のもう一つの問題点は、そもそも量的指標の概念自体が非常に曖昧なものだということである。

2国間の通貨の需給を測る際の最も適切な指標が、銀行券の量なのか銀行の準備預金を含むマネタリーベースの量なのか、あるいは預金通貨を含むより広義の金融ストックの量なのか、理論的に特定することは実は簡単ではない。

例えば、現状において日銀が銀行などから国債を買い入れて銀行の準備預金を増加させようとする場合、銀行側からすれば、売却する資産が6カ月物の短期国債であれば、それが準備預金に置き換わっても金利は全く変わらない。

つまり、銀行にとって短期国債は既に完全にキャッシュと同等の資産であり、現在、170兆円ほどの短期国債残高をマネタリーベースに含めてみても実質的な意味合いは殆ど変わらないことになる。短期国債を含めるだけでマネタリーベースの規模は一気に2.5倍に跳ね上がってしまうわけであり、このような曖昧な概念の指標を通貨需給の指標として使うことに意味はない。

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