論理バカと現場バカ ロジックと現場主義の使い分け方

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次に後者の売上高を上げることを考えてみます。ところがこれを論理で考えても多くの場合限界があります。

なぜなら、買うかどうかを決めるのはお客様だからです。

先ほどのコスト削減の場合は、使うのも払うのも自分に意思決定権がありましたが、売上高を上げる場合は自分に意思決定権はありません。

したがって売上高を上げようとしたら、理屈をこねくり回すというよりも、まず期間限定でも対象者限定でもいいからやってみて、そこでのお客様からのフィードバックを踏まえてトライ&エラーで地道に改善していくしかありません。

つまりコスト削減は論理的にものを考え、論点整理と進捗管理が重要ですが、売り上げ拡大は勇気をもってやってみて、高速PDCAサイクルを回してトライ&エラーで修正していくというのがポイントになります。

コスト削減は自社の努力で、売り上げ拡大はお客様からの評価と言い換えてもよいかもしれません。 

ヒントは、喜怒哀楽の幅にある

当社のバス・タクシー事業でいうと、路線の収支はきめ細かく分析しないと何もわかりませんが、タクシーの増収は乗務員にやる気になってもらえるかどうかです。もちろんタクシー事業でも細かい数字は見たほうがよいですが、その集計にいたずらに時間を使うのなら、現場に行って自分のシフトが終わる前にあと1周市内を流してくれるよう、気持ちを高める努力をするほうがよほど重要です。

大切なのは、現場か論理かという優先順位の付け方というより、それぞれの可能性と限界を理解して、組み合わせていくことや使い分けていくことではないでしょうか。現場を信奉する現場主義者でも、論理を振りかざす思想家でも、どちらが優れているということはまったくないですし、ましてや現場か論理という単純な二元論の先には、決して答えはないと思います。

ただ「わかる」と「できる」は大きく違います。私も完全にできているとは到底言えませんが、自分なりの現場と論理の合わせ技はつねに模索し、格闘しています。

その1つのヒントは喜怒哀楽の幅だと思っています。

人間は自分の喜怒哀楽を超えて、他人の喜怒哀楽を理解できません。喜怒哀楽の幅を増やすためには、挑戦であり失敗であり挫折がとても重要で、思えば僕の関係した企業再生はそんなのばかりでした。

次回は、そんな喜怒哀楽の幅を広げてきた経験について触れることから始めたいと思います。

※ 本文は筆者の個人的見解であり、所属する組織・団体を代表するものではありません。

中里 基 企業再生ファンド勤務 ターンアラウンドマネージャー

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なかざと もとい / Motoi Nakazato

企業再生ファンド勤務 ターンアラウンドマネージャー
慶応義塾大学理工学部卒業、同大学院理工学研究科修了。日本IBM、マーサージャパン、コーポレイトディレクション(CDI)での戦略コンサルタント/プロジェクトマネジャーを経て、10年より企業再生・地域経済活性化を支援する官民ファンド勤務。ターンアラウンドマネージャーとして、さまざまな業種における企業再生(戦略立案・実行)に従事。グロービス・マネジメント・スクール講師、グロービス・パートナーファカルティー。
Twitter:@chu_riki 筆者連絡先:motoinakazato@yahoo.co.jp

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