飛び抜けた成果を狙うなら異界にダイブせよ シャフトをグーグルに売った加藤崇氏に聞く

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――今回の著書に記されていたシャフトのエピソードにも、日本のファンドに出資を断られ、日本での展開が絶望的になりながらも、最終的にはグーグルに売却して成功をおさめる、という逆転がありましたね。

あの時、僕は確率に賭けるのではなく、可能性に賭けたんです。確率としては、ベンチャーが経済的に成功をおさめるのは難しいのかもしれない。それでも、可能性に賭けて思い切りダイブしたのです。その結果、グーグルに売却することができました。グーグルに売却したあと、僕はとても気持ちが高揚し、さらなる自信をもつことができました。だから、今はシリコンバレーでさらなる挑戦ができているし、あるいはシャフトの可能性に賭けられたこと自体も、それ以前のM&Aの成功や、ベンチャーでの経験が、熱量をもって支えてくれていたわけです。

この感覚は、覚悟を決めてダイブをした人にしか得られない世界だと思います。いま乗り越える局面に直面しているひとに対して、そういう世界があるのだということを、この本を通して伝えたかったんです。

守られた環境でプレーすべきではない

――「日本にも優秀な人材はたくさんいる」とおっしゃっていましたが、加藤さんは今の日本に希望を持っていますか?

やる気に満ちあふれた優秀な人材は、もちろん日本にもいます。しかし、どこまでいっても大企業志向だったり、守られている場所でプレーしてしまっていると思うんです。ある種のシェルターの中で働いている感覚です。せっかくの優秀な人材も、気を使ってストレートを投げず、カーブばかりで勝負をしているような。要するに本当の勝負をしていないと思うんです。そういう意味では、日本は人材という資源を半分も使えていないと思います。

――「何かやってやりたい!」と思っている人は、シェルターから抜け出して本当の勝負をするべき、というお考えなのですね。

守られた場所の中でプレーしてしまうと、大きい成果をあげるのは難しくなります。でも、本当の勝負をすることってつらさが伴うんですよね。今の日本には、そのつらさを緩和する制度が整っていないと思います。日本は国をあげてチャレンジする人を支援する制度を整えるべきだと思います。

――加藤さんもシャフト立ち上げの時に国内で壁にぶつかり、海外へと目を向けることになりましたよね。

そうです。同じように日本人の若者が本当の勝負をしようと思ったとしても、今度は国内での規制の多さや資本の少なさ、同じような志を持つ人の少なさに直面すると思います。そうなると国内では難しくなり、海外へ目を向けるようになるのです。

だからこそ、「日本で育てて海外へ」と考えるのではなく、最初からアメリカの市場で勝負して、スピードレースに巻き込まれる方が良いのかもしれないと今は考えています。今僕が手掛けているビジネスも、日本の市場はまったく頭に入れず、アメリカ一点突破です。そのためにも、現在シリコンバレーに住みながら、こちらで働いています。

――シリコンバレーの環境は、やはり日本とは違いますか?

アメリカ、特に西海岸は、ビジネスに関する環境がものすごく整っています。資金は豊富で、経営人材やミドルプレイヤーもゴロゴロいます。エンジニアもすさまじい人材がそろっていますし。日本とは比べ物にならないぐらい、ダイブしやすい環境が整っていると思いますよ。日本ではちょっと物足りなさを感じていた僕は、こちらに来てから周囲のビジネスパーソンのレベルの高さに、正直焦りを感じています。さらに、海外からも英知を結集する目的で、カリフォルニア自体が移民の受け入れに対して非常に積極的なんです。だからこそ、移民に対する教育や生活環境も整っていると感じます。

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