米国の利上げ時期は遠いのか、近いのか 市場関係者が注視する米FRB高官の発言

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「タカ派」として知られるリッチモンド連銀のラッカー総裁は、「現時点で6月の利上げには強い根拠がある」として、利上げの正当性を強調。「インフレ率は目標の2%に向けて上昇しており、労働市場は大幅に引き締まっている」と指摘し、「海外の経済や金融市場の下向きリスクは年初から大幅に後退した」としている。また「1〜3月期の経済成長の鈍化は一時的」とし、「消費は力強さを失っておらず、住宅部門も堅調に伸びている」としている。

さらに同総裁は、利上げが遅れることによるリスクにも言及。2003年半ばから2004年にかけて、米国がデフレ懸念からインフレ急伸の恐れに直面し、急激な引き締めに迫られたことへの反省もあるのだろう。同総裁は、現在は当時と同じ状況にあるとみており、今後はさらに利上げ支持の姿勢を強めるものと思われる。

利上げ判断のヒントは不動産ローンにあり

さて、これらの地区連銀総裁の中で、今年のFOMCの投票権を持つのは、実はボストン連銀のローゼングレン総裁のみである。とはいえ、その他の地区連銀総裁の発言を無視してよいということにはならない。また市場は、目先の経済指標やそれに対するFRB高官の発言にのみ注目しているようだが、利上げ判断のヒントは、実は雇用や賃金の伸びではなく、むしろ不動産ローンの動向にある可能性がみえてくる。

米国の商業用不動産価格は金融危機前のピークを超えており、不動産ローン債務の一部も10年時点から急激に増大しているという。これ以上、低金利状態を放置すれば、ローン債務が膨張し、再びバブル崩壊となるリスクもある。FRBとしては、それだけは避けなければならない。そのため、あらかじめ金利を引き上げることで、これ以上の膨張を避ける必要がある。そのための「口先介入」は今後も続くだろう。

ローゼングレン総裁は、世界経済の懸念が後退しているのもかかわらず、市場が利上げをほとんど織り込んでいないことに懸念を示している。そのため、想定外の金利引き上げにならないように、地ならしをしているともいえる。一方で、英国の欧州連合(EU)離脱を問う国民投票に伴う影響もあり、6月利上げは難しいとの見方が市場に多い。

現実的に考えれば、利上げは早くても7月ということになるだろうが、多くの地区連銀総裁が指摘するような年内の利上げは、現時点では非常に難しいように感じる。利上げすれば株価の下落リスクが高まり、逆に利上げが出来ないようであれば、景気は悪化しているため、やはり株価は下げやすい。金融市場に影響を与えずに利上げができるのか。今後の経済指標とFRB高官の発言から目が離せない。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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