1年後、決算短信からBSとPLが消える? 中身より速さを優先、ディスクローズ後退か

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高収益なのに開示に後ろ向きであるとして、ファナック、キーエンス、SMCはかつて、”頑固3兄弟”の異名を取った。ファナックは大きくスタンスを変えたが、残る2社はどうなのか。業績不振企業は当然ながら、開示に後ろ向きになる。昨日の勝ち組企業が、瞬きをしている間に真っ逆様、ということは決して珍しくない。

一般に小規模な上場会社でも、時価総額が100億円を超えてくると、比較的長期型の運用方針のファンドなどが投資対象にし始める。そのくらいの会社の中には、気心の知れた取引先との持ち合いに守られ、見ず知らずの株主から耳が痛い指摘を受けることを快く思わない会社が、少なからず存在する。業績が好調でも、同業他社に数字を見られたくないという理由で情報開示に消極的、という会社も少なからずある。そういう会社の中には、要請がなくなれば、財務3表の開示をやめるところが出てくる可能性もあろう。

自社に都合のいい情報だけを発信する企業にも、一律に自由を認めて市場の秩序は維持できるのだろうか。

心配なのは開示に消極的な中小型銘柄

あのファナックも最近は情報開示に身を乗り出すようになった(撮影:尾形文繁)

開示に消極的で、一定の形式での開示を義務付ける必要のある上場会社が一定程度存在することは、経団連も認識している。「東証の立場は理解しているつもりだが、経団連としては引き続き、何らかの形でさらなる短信の簡素化と、四半期開示の任意化を求めていく」(小畑良晴・経済基盤本部長)。

日本株を運用対象にしている米国籍ファンドの運用責任者は、「四半期は短信と報告書の提出時期が近接しているから、短信から財務3表が消えても影響はほとんどないが、本決算については、財務3表の添付義務をなくすなら、有価証券報告書の提出時期を現在の短信提出時期くらいまで前倒ししてもらわなければ納得できない」と言い切る。

今回の制度改正で最も影響を受けるのは、必ずしも開示に積極的ではない中小型銘柄を運用対象にしている投資家だ。普段、財務3表を見ない個人投資家も例外ではない。直接、自ら財務3表を見ることはない個人投資家だと、影響についての自覚は持ちにくい。だが、プロの投資家が分析・加工したツールを利用している以上、分析手段を失えば、もろに影響を受ける。

これから取引所は、上場規定の見直しに着手する。早晩、「投資判断に影響を与えない」ということについての基準、もしくは目安も明らかになるはず。当然ながら、パブリックコメントの募集も行われる。この機会を生かすも殺すも投資家次第だ。

伊藤 歩 金融ジャーナリスト

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いとう・あゆみ / Ayumi Ito

1962年神奈川県生まれ。ノンバンク、外資系銀行、信用調査機関を経て独立。主要執筆分野は法律と会計だが、球団経営、興行の視点からプロ野球の記事も執筆。著書は『ドケチな広島、クレバーな日ハム、どこまでも特殊な巨人 球団経営がわかればプロ野球がわかる』(星海社新書)、『TOB阻止完全対策マニュアル』(ZAITEN Books)、『優良中古マンション 不都合な真実』(東洋経済新報社)『最新 弁護士業界大研究』(産学社)など。

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