主役より光る!真田昌幸「弱くても勝つ方法」 大河ドラマ「真田丸」に学ぶ生き残りの戦略

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家康の後継者秀忠は、徳川軍の主力である3万8000の大軍を率いて、中山道を上方に向かった。秀忠は上田城の昌幸に、信幸と本多忠勝の長男忠政を使者として送り、帰順を勧告した。昌幸は帰順するような態度を見せながら、最終的には「太閤様の御恩忘れがたく……」と抗戦の意思を示した。

家康も見誤った智将・昌幸の人間性

秀忠は麾下の武将に上田城攻略を命じ、関ヶ原合戦の前哨戦が始まった。信幸は信繁の籠もる砥石城攻略を命じられたが、信繁は砥石城から兵を引き、兄弟による死闘を回避した。砥石城の占領は信幸の功とされた。

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昌幸は2000の兵力で籠城戦を展開し、奇策を用いて秀忠軍を誘って打ち破った。徳川方の史料にも「我が軍大いに敗れ、死傷算なし」とある。秀忠は昌幸に翻弄されて小諸に退いた。

利根川の増水で遅れていた家康からの使者が、秀忠の許に着き、上洛を命じられた秀忠は上田攻略を諦め、急いで上方に向かった。だが秀忠は、9月15日の関ヶ原合戦の本戦に遅参してしまった。そのため家康は、豊臣恩顧の大名たちの軍勢を主力にして戦わねばならず、戦後の論功行賞では、彼らに大禄を与えねばならなくなった。

さすがの昌幸も、たった一日の戦いで、三成方が崩壊するとは思ってもいなかった。家康は昌幸と信繁父子に、上田領没収と死罪の処分を下したが、長男の信幸とその舅の本多忠勝の助命嘆願によって高野山への蟄居とされた。

信幸と別れの対面をした昌幸は「さてもさても口惜しきかな。内府をこそ、このようにしてやろうと思ったのに」と涙を流し、無念の胸中を語ったという。

昌幸と信繁は高野山麓の九度山(くどやま)に屋敷を構えて住み、紀州藩主になった浅野幸長の監視を受けた。昌幸は浅野家から毎年50石の米を贈られ、信幸は年貢の一部を割いて支援したが、昌幸らの生活は苦しく、信幸や浅野家を通じて家康に赦免を願っていた。晩年の昌幸は気力が衰え、慶長16年(1611)に65歳で死去した。

昌幸は領土に対する執着心が強く、爽やかな武将ではない。現代で言うなら、破格の俸給を提示されれば、ライバル会社に移籍することも厭わないと思える人だ。昌幸は徳川の大軍を少兵力で二度までも破り、絶大な「費用対効果」を上げている。家康も昌幸を小領主とあなどらず、慎重に接していれば傘下にできたのだ。

昌幸の人生の最後は残念なものになったが、それでも大国相手にひるむことのなかった生きざまは、現代人にも「小」が「大」に勝つヒントを提示してくれる。

東京下町の工場では、大企業にない手作業の技術で世界から注目されており、中小のメリヤスメーカーは独創的な発想で、継ぎ目のない一体になった衣服を織り、フランスの有名ブランドからも注目されていると聞く。 現代で資本力の弱い「小」が「大」を凌ぐ方策は、「智恵」と「独創性」ではないだろうか。

二木 謙一 國學院大學名誉教授

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ふたき けんいち

1940年東京都生まれ。國學院大學大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。國學院大學名誉教授。豊島岡女子学園中学高等学校理事長。『中世武家儀礼の研究』(吉川弘文館)でサントリー学芸賞を受賞。NHK大河ドラマ「平清盛」「江.姫たちの戦国.」「軍師 官兵衛」ほか多数の風俗・時代考証を手がけたことで知られる。主な著書に『関ヶ原合戦─戦国のいちばん長い日』(中公新書)、『徳川家康』(ちくま新書)、 『中世武家の作法』『武家儀礼格式の研究』『時代劇と風俗考証』(以上、吉川弘文館)、 監修に『本当は全然偉くない征夷大将軍の真実』(小社刊)など多数

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