求められる日本経済のアニマル・スピリッツ 金融緩和の効果は期待薄(日銀ウォッチャー)

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実質賃金の上昇期待が持てないことが日本の問題

日銀がインフレ目標を2~3%に引き上げても、多くの人が自分の賃金もそれに合わせて増加して行く(あるいはそれ以上に増加して行く)というイメージを持てなければ、消費支出は活発化しにくい。賃金が上がって行くからこそ、消費が増加する。それによって、供給サイドの価格決定力が高まって値上げが行われ、企業の収益が向上し、賃金がさらに上昇するというスパイラルが起きると、インフレ率は上昇しやすくなる。

先月シンガポールに出張したが、同地の9月のCPI(消費者物価)の前年比上昇率はプラス4.7%だった。移民制限策によりサービス産業を中心に人手不足が起きており、それが賃金上昇を招いている。あるエコノミストは「賃金上昇がサービス価格を押し上げ、それが新たな賃金上昇を招くというスパイラルの危険がある」と警戒していた。

夏にブラジルに行ったときも同様の空気を感じた。ブラジルのインフレ目標はプラス4.5%だが、ベンチマークとなっているIPCA-15の前年比は、10月中旬はプラス5.56%と大幅に高い。ブラジル政府は国民の所得水準向上に非常に熱心な政府である。最低賃金の上昇率は、2年前の実質GDP成長率に、昨年のインフレ率を加えるという計算式で決定されている。

今年のブラジルの成長率はプラス2%を割り込むという見方が多いのに、最低賃金の上昇率はなんと14%だ(10年のGDP成長率はプラス7.5%、11年のインフレ率はプラス6.5%だったので、合計すると14%)。中所得、高所得の人々の賃金は最低賃金に直接連動しないが、賃金交渉の際の参考指標にはなっている。このため、先進国に比べれば遙かに大きい賃上げが毎年行われてきた。

日本から見ると、維持可能性が疑わしく感じられるほどの賃上げだが、それでもブラジルでは、民間だけでなく公務員も賃上げを求めて激しいストライキを行う。この8月には、ブラジル中央銀行労働組合が24%の賃上げを要求してストライキを敢行した。新聞は「インフレ率を低下させることがこの機関の役目なのに、職員は大幅な賃上げを要求している」と皮肉っていた。

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