求められる日本経済のアニマル・スピリッツ 金融緩和の効果は期待薄(日銀ウォッチャー)
アニマル・スピリッツ不在なら信用乗数は低下
「日銀は、小出しではなく、思い切った金融緩和策を行うべきだ」という声はよく聞かれる。しかし、こう言ってしまうと身も蓋もなくなってしまうのだが、現状においては、金融政策にあまり期待をかけない方がよいだろう。振り返れば、2年前に米ウォールストリート・ジャーナルの社説は、2回に渡って、日本の金融政策について、極めて本質的な洞察の深い指摘を行っていた。
10年9月1日の社説。「日本の金融の問題は、マネーに対する需要不足であり、その供給が足りないことではない。薬物中毒者と同じように、新しい“注射”の効果は一時的であり、日本経済がその“薬物”に慣れると、同じ効果を生み出す“注射”がもっと欲しくなる。日本が本当に必要としているものは、構造改革を伴う経済のリハビリへの旅だ。しかし、東京の政治家はその線に沿ったあらゆる努力に抵抗を示してきた」。
10年10月6日の社説。「この国ではどんな金利でも資金に対する借入需要が出てこない。政策決定者は、マネーの量は、インフレやデフレを決める方程式の半分であることを思い出すべきだ。残りの半分は信用乗数である。別の表現で言うなら、それはアニマル・スピリッツだ。それは政治の領域であり、中央銀行の領域ではない」。
人々が、経済が成長していくというイメージを持てず、民間に活力(あるいはアニマル・スピリッツ)が存在しなければ、中央銀行がどれだけ緩和的な環境を生み出しても、低利の資金を利用して消費や投資を活発化させようという勢いは加速しない。高齢化社会が世界最速で進んでいる日本の場合はなおさらである。日銀が資金供給を増加させても、その金はあちこちでよどんで動かない状態にある。
名目GDPに対する中央銀行の総資産の比率を見ると、日銀はFRBよりも今や圧倒的に巨大だ。10月末時点で日銀は32%、FRBは18%である。上記のように日銀が今後追加緩和を行えば、13年末の日銀資産の対GDP比率は大幅に上昇し40%を超えるだろう。金融機関が保有する日銀当座預金残高(その大半は準備預金)は、現在は40兆円前後だが、来年末は90~100兆円になる可能性もある。しかし、その膨大な資金は、今と同様に使われずに、日銀の口座に退蔵されるだろう。FRBが仮に来年一杯、MBSと長期国債を買い続けても、その資産の対GDP比率は23%程度にとどまると思われる(GDPはIMF予想を利用した)。
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