求められる日本経済のアニマル・スピリッツ 金融緩和の効果は期待薄(日銀ウォッチャー)

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製品競争力でなく賃金カットでしのいできた日本の経営者

日本は全く逆である。民間の年間賃金は1997年467.3万円がピークで、11年は409万円に減った。それを金融政策のせいだけにするのは無理がある。90年代以降、多くの日本企業の経営者は、自社製品の付加価値を拡大する戦略で収益を向上させるのではなく、賃金カットを中心とするコスト削減を選択してきた。それにより人々は消費に慎重になり、企業業績はさらに沈滞するという「合成の誤謬」が発生した。その状態が長期化し、かつ日本経済の将来の成長に対しても悲観的な見方が増えているため、多くの人々は賃金上昇期待を持てないでいる。

人々が実質賃金の先行きの増加をイメージできない中で、仮にインフレ率が先に高まったら、多くの日本人はかえって消費を慎重化させるだろう(70年代のオイルショック時のインフレの際に、日本人の消費は縮小した)。

残念ながら、一振りすれば画期的に景気が良くなる「打ち出の小槌」は存在しない。先日、シンガポールの機関投資家に「日本には今やブルーチップ企業(優良企業)がなくなってしまったねえ」と言われた。国際競争力を持つ優良企業を増加させていくような、中長期的成長戦略をしっかりと実行して行く必要がある。
 

加藤 出 東短リサーチ社長

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かとう いずる / Izuru Kato

1988年、横浜国立大学経済学部卒業、東京短資入社。金融先物、CD、CP、コールなど短期市場のブローカーとエコノミストを2001年まで兼務。02年2月よりチーフエコノミスト。13年2月より東短リサーチ代表取締役社長。短期金融市場の現場から各国の金融政策を分析。『日銀は死んだのか?』『バーナンキのFRB』『日銀、「出口」なし! 異次元緩和の次に来る危機』  など著作多数

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