羽田アクセスで国が本当に作りたい路線は? お役所的な「特有の表現」で優先順位がわかる

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石井国交相に答申書を手渡す「東京圏における今後の都市鉄道のあり方に関する小委員会」の家田委員長

東京圏の鉄道整備基本計画は戦後、運輸大臣の諮問機関だった都市交通審議会(都交審)や、都交審の機能を引き継いだ運政審によってまとめられてきた。

都交審が初めて策定した基本計画(都交審1号答申)では、東京都心部に6本(うち2本は分岐線)の地下鉄を整備すべきとし、郊外に伸びる私鉄が地下鉄に乗り入れてターミナルの混雑緩和を図るものとした。

その後も都交審は、高度経済成長に伴う鉄道の輸送力不足に対応するため、新しい路線の建設や複々線化といった大規模プロジェクトを追加した基本計画を順次答申していく。しかし、1973年の石油ショックで日本の経済が低成長時代に入り、建設費の高騰や国・自治体の財政難も重なって新線の建設や複々線化が困難になると、既存の施設を活用して輸送力を強化しようという発想が生まれた。

こうしたことから、1985年に運政審が答申した基本計画(運政審7号答申)では、既設の貨物線に旅客列車を走らせるというプロジェクトがいくつか盛り込まれた。2000年に策定された運政審18号答申でも、既存施設の活用という考え方が強まり、待避線の増設や列車の長編成化など「既設路線の改良等の事業」を先に記し、その次に大規模プロジェクトである「路線の新設、複々線化等」の項目を置く構成となった。

そして今回、交政審が策定した新答申を見てみると、答申書で意見を述べている部分は計47ページ(約2万1000字)。このうち、新線や複々線化など個々の大規模プロジェクトに対する意見は34ページに渡って記されている。ただ、路線図が紙面の大半を占めているため、文字数では全体の約38%(約8000字)に過ぎない。残りの約62%(約1万3000字)は、既存施設の改良策や運用改善策などが中心となっていた。

東京圏では1950年代から2000年代にかけて鉄道の整備が進み、ラッシュ時の混雑率はそれなりに緩和された。しかも、日本は今後、本格的な人口減少社会に突入する。こうした状況を踏まえると、膨大な費用がかかり実現が困難な大規模プロジェクトの推進より、既存施設の改良などを中心に据えるのは、当然の流れといえるだろう。

新機軸は遅延対策の「見える化」

それでは、既存施設の改良などについて、どのような意見が述べられているのだろうか。新答申は「東京圏の都市鉄道が目指すべき姿」として、以下の6点を掲げており、既存施設の改良などについても、この6点を実現するための方策を盛り込んでいる。このうち、とくに注目されるのが(5)の遅延対策だ。

(1)国際競争力の強化に資する都市鉄道
(2)豊かな国民生活に資する都市鉄道
(3)まちづくりと連携した持続可能な都市鉄道
(4)駅空間の質的変化〜次世代ステーションの創造〜
(5)信頼と安心の都市鉄道〜安全運行を前提とした遅延対策の強化〜
(6)災害対策の強力な推進と取組の「見える化」

新答申は、東京圏の鉄道について「短時間の遅延が慢性的に発生しているほか、長時間の遅延も広範囲に発生しており、発生回数も増加している」とし、ホームの増設や拡幅、列車の折り返し設備の整備などを求めているが、これ以外にも、遅延の「見える化」が必要であるとしている。

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