トランプが共和党候補に選ばれた8つの要因 共和党の戦略ミスのツケが回ってきた

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第7に、2009年のオバマ政権が始まった頃、共和党指導部は、その最優先課題は「1期4年でオバマ政権を終わらせる」ことと発表した。これは、党が上院と下院の両方で、医療関連、移民、銃規制、気候変動、環境規制、イランとの交渉、キューバとの外交関係の再開など「あらゆる問題に関するオバマ政権の努力を妨害するために、できる限りの手を尽くすこと」を意味した。妥協しないというこの断固とした態度は、共和党と民主党の間の両極性を悪化させ、政治が機能不全であると米国民の目に映り、現職政治家に対する国民の不信と不満につながった。

第8に、共和党指導部はこうした党員の怒りや不満を十分に把握していなかった。これが、党員集会と予備選挙が2016年2月に始まるまで、トランプの立候補を真面目に捉えていなかった理由である。そのため、2015年、2016年の間、他の16名の共和党候補者はお互いに戦っていた。特に、主流派の候補で、前フロリダ州知事ジェブ・ブッシュ、ニュージャージー州知事クリス・クリスティ、およびフロリダ州上院議員マルコ・ルビオといった候補者は、お互いに足の引っ張り合いに終始し、敗北することとなった。その間に、トランプは、最有力候補として頭角を現した。そして、彼らが今年2月にその現実に気が付いた時には、トランプの勢いは、止めることができないパワーとなっていた。

「160年続いた政党が自殺しようとしている」

保守的なシンクタンクであるEthics and Public Policy Center (倫理と公共政策センター) の選挙アナリストのヘンリー・オルセンは、インディアナ州のトランプの選挙での勝利についてこうコメントをしている。「私は160年続いた政党が、今まさに自殺しようとしているのを見ている」。

共和党全国委員会が、2012年の選挙で共和党が負けた理由を分析する報告書を2013年に発行したことを考えると、これは誠に皮肉な結果だ。結論の中で、党はもっと若い層、少数民族、そして女性の有権者、つまりトランプの主張にもっとも惹かれないようなグループに、もっとアピールすることが必要だとしていたのだ。

予備選挙は5月7日から6月14日までの間の8日間に行われるが、このうちカリフォルニア州、モンタナ州、ニュージャージー州で予備選がある6月7日は、トランプが指名を決定的にするのに必要な残りの230代議員数を獲得する上での重要な場になるだろう。3州の共和党代議員は合計で250人おり、このうちカリフォルニア州だけで172人の代議員を抱える。

本選は、ほぼ確実にドナルド・トランプとヒラリー・クリントンの間の争いになりそうだ(2016年 ロイター/Scott Audette/Javier Galeano)

一方の民主党はどうか。インディアナ州の予備選挙は、バーモント州上院議員バーニー・サンダースが52%で、前国務長官ヒラリー・クリントン48%に対し、勝利する結果となったが、クリントンが民主党の指名を獲得することは実質的に確実であることに変わりはない。彼女はすでに、代議員数2220を集めており、それに対してサンダースは1449のみである。クリントンは7月のフィラデルフィアでの民主党大会を待たずに、指名を獲得するために必要な、代議員数2383を得ることがほぼ確実だ。

それゆえ、7月の終わりに始まる総選挙は、2つの全国党大会後、ほぼ確実にトランプとクリントンの間の争いになる。ほとんどの世論調査は、選挙が今日行われたとしたらトランプに対し、10%以上の大差でクリントン支持を示している。しかし、本選は11月8日だ。これから5カ月で何が起こるか予測不可能である。実際、今年の大統領選挙は、これまでのところ次から次へと想定外の展開で、驚くことばかりが起きており、予断をもって見ることはできない。

グレン・S・フクシマ 米国先端政策研究所(CAP) 上級研究員

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Glen S. Fukushima

ワシントンD.C.のシンクタンク「米国先端政策研究所(CAP)」の上級研究員。カリフォルニア州出身で、アメリカ合衆国通商代表部で対日と対中を担当する代表補代理や在日米国商工会議所の会頭を務めた経歴を持つ。また、ハーバード大学の大学院生のときには、エドウィン・ライシャワー教授、エズラ・ヴォーゲル教授、デイヴィッド・リースマン教授の助手を務めた。

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