地方を消滅させるのは、従来型エリートだ! 藤野英人×木下斉、「ヤンキーの虎」を語る
木下:しかし、地方自治体が地元政策を検討する際に、ヤンキーの虎たちは実際に地域経済を大きく動かしているにも関わらず、彼らを委員に指名しないんですよね。彼らの存在を知らない。もしくは、知ってても厳しいことをズバッといったりするので、恐ろしくて呼べない(笑)。
しかし、厳しいことを言うのは、彼らが極めて現実主義者だからです。大学の偉い先生なども「こうしたら良いでしょう」ということが分かっていても、実際の地域でそれをどう実行するのか、ということまでは見えない。
例えば、うるさい旅館組合の「組合長の◯◯さん」に賛成してもらうためにはどうするのか、安いコストで儲かる店をつくるのに必要な材料をどう地域で集めてくるのか。そういうことは、ヤンキーの虎のような人たちのほうが巧みにやっているんですよね。だから彼らは極めて具体的な疑問を持つし、行動も極めて現実的。空想のような計画にはズバリとモノ申す。だからこそ、彼らに焦点を当てることは必要だと思います。
藤野:ええ。地方創生を進める中で、ヤンキーの虎に注目して、彼らを言論の中に加え、主役あるいは脇役として戦略に組み込むべきです。実際に地方経済を動かしているのは彼らなんだから。
なぜ「ヤンキーの虎」のビジネスは成功するのか
木下:僕はよく、「地元で一緒にビジネスをやる人をどうやって見つけるんですか?」と聞かれるんですけど、「地元で一番かわいい子、イケてる奴が集まっている店のオーナーを紹介してもらう」と答えるんです。これが一番間違いがない。
そういう店のオーナーは、地元の消費の方向性やマーケットが一番見えている人だからです。その人の周りには、地元で様々な企業やっている経営者も集まっているし、これから事業に挑戦しようという若い人たちも集まっている。
彼らのような人たちもヤンキーの虎だと思うんですが、必ず地元にいるんですよね。実は30〜40年前から結構いて、昔だと暴走族のリーダーだったりとかしたんですよね(笑)。
彼らのような、自分たちでやる人たちは、独自のやり方で店づくりをする。
例えば熊本では、既存建築を活用した町づくりを長らくされている方がいるんですが、そこで若い人が店を出したいと言えば、子分のような地元の左官職人や大工を集め、店作りをする。
さらに、その人は熊本県内から廃品を自分の倉庫に集めることができる。どこから仕入れているんだろうと不思議に思いますけど、ジェットエンジンとか、パルテノン神殿みたいな立派な公共施設の古い柱とかがあったりするんですよね。それで店を出す若い人に「金がないんだからモノは買うな。ここにあるものなら何でも持って行っていいぞ」といって、初期投資に対してまで厳しく口を出します。
すると、普通に店を出す場合は3000万円かかるところを、300万円で出せるようにしてしまったりする。しっかりとしたビジネスができる人であれば、最初の投資を軽くすれば、ビジネスの成功確率が高まることを分かっているからそうするわけです。このような人の周りには新たな挑戦する人たちが集まり、何十と店を出す成功者もどんどんと出てくる。
ヤンキーの虎のような人は、単に独立独歩で地域の既存組織などに迎合しないものの、実はしっかりと人脈を持ち、自分の実践の中でポリシーを作り、それらをしっかりと事業に活かしていますよね。
藤野:彼らは、ビジネススクールで勉強してMBAを取ったわけではないんですよね。体感的にビジネス手法を学んできている。
インセンティブシステムを持っているわけでもないんだけど、「俺とお前」の関係、つまり地縁・血縁の人間関係があるからこそ、できるビジネスなんです。賞与をあげなければ動かないという人たちではない。メンタリティで繋がっているわけ。それが強みなんです。
木下:彼らは動物的ですよね。まずやってみる。変化や失敗に躊躇がないから、まずやって、おかしかったらすぐに変える。
ある意味、彼らは「はぐれ者」として扱われているんで、「あれはダメだ」「あのやり方はおかしい」とか言われてもへこたれないんです。メンタルが極めて強い。
藤野:それで実際に実績を出しているし、数字も強くて、マインドも強い。地方では無敵の存在です。