地方を消滅させるのは、従来型エリートだ! 藤野英人×木下斉、「ヤンキーの虎」を語る

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ただ、増田レポートの問題点は、やはりご自身が建設官僚、そして最後には総務大臣を務められていたこともあり、行政中心的な考え方が色濃いということだと思うんです。

人口論をベースにしている議論ではあるわけですが、地方の人口が減少して地方自治体の経営が破綻すると言う割には、行政改革はしない前提なんですね。行政というものは、人の生活に必要な共有サービスを提供する組織。人口減少が進めば、ある程度、一定の人口規模で統廃合しながら、提供側を効率化していきましょう、という話になるのが自然なはずなのです。

ところが、なぜか今の役所をどう変えるかなどは置いておいて、「若者を地方に移して子供を生ませて、人口を増加させればよい」という話になってしまう。

変わるべきは、人口中心で語られてきた社会の生産構造であり、一時期は人口が多すぎると言われていた、我が国の大人口を前提にした行政経営にあると、私は思っています。都道府県の再配置や、市町村の非効率な業務単位をそのままにして、若者を地方に移動させて人口を増やし、今まで通りのやり方を通そうというのは、国民と行政の関係において、その主従が逆転しているのではないかと思うわけです。

地方政策は政治家による豪腕とともに、「大卒で優秀」と言われる官僚や地方行政マン、大手企業などのエスタブリッシュメント層が、しっかりと法律に則り、組織方針に沿って、極めてまじめに東京から地方へと再配分を財源に取り組んできました。しかし、現実をみれば、やればやるほど地方は国への財政的依存を強め、今のように衰退極まる状況にまで至りました。

自治体も地域で事業をやるのに多額の補助金を出し続け、地方土建に限らず、大手企業などでさえ補助金をアテにして工場を作ったりするようになってしまいました。

しかし、このような「なんでも税金依存」の時代に、地方にはもう一つの大きな動きがある。実は、中卒や高卒の経営者たちが地元でバリバリ事業を立ち上げたり、お店を出店させ、人を雇い、地方経済をダイナミックに動かしているという現実です。

なぜ地方経済の主役は「ヤンキーの虎」なのか

藤野 英人(ふじの ひでと)レオス・キャピタルワークス代表取締役社長兼CIO(最高投資責任者)1966年富山県生まれ。1990年早稲田大学法学部卒業。野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)、ジャーン・フレミング投信・投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)などを経て、2003年レオス・キャピタルワークス創業、CIOに就任。中小型・成長株の運用経験が長く、25年で延べ5500社、6000人以上の社長に取材。ファンドマネジャーとして豊富なキャリアを持つ。2009年取締役就任後、2015年10月より現職

藤野:木下さんの地方創生の結論は、ボトムアップですよね。地元でビジネスを展開する人たちに焦点をあてるという。

木下:基本的にそうですね。僕が地方で一緒に事業をやる相手は、独自のやり方で店を出していくような経営者たちです。藤野さんが今回書かれた『ヤンキーの虎』のテーマでもありますが、彼らこそ地方経済を牽引している人たちだと思います。

藤野:僕が今回書いたのは、まさにそういう人たちです。地方で貪欲にビジネスを広げている経営者たちを、「ヤンキーの虎」と名付けました。

なぜ「虎」かというと、彼らの多くは、ビジネスに関してまさに「虎」のように自分から積極的に動いてリスクを取る肉食系だから。

「ヤンキー」というのは、彼ら自身が必ずしもヤンキーというわけではないんです。少し前に「マイルドヤンキー」論が流行りましたよね。マイルドヤンキーは、博報堂ブランドデザイン若者研究所の原田曜平さんが、著書『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)で名付けた言葉で、地元が大好きで、地元から離れず、その生活に満足している若者たちを総称したものです。

このマイルドヤンキーたちを雇って、ビジネスをしている胴元が「ヤンキーの虎」です。

このヤンキーの虎たちが各地域の中にたくさんいて、ビジネスをどんどん広げている。僕は、彼らをもっと評価するべきだし、一つの経済セクターとして認識してほしいというのが、今回の本を出版した目的なんです。

次ページなぜ地方自治体は「ヤンキーの虎」を使いこなせないのか
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