なぜ三菱自動車は芯から腐ってしまったのか 共同体意識の強い組織が抱える根っこの病巣

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中野:一方で、重厚長大産業になると組織の硬直化が進んでいます。あと、同じ流通業界でも百貨店はまだまだ体質が古い。それと、人事について海外のビジネスパースンに驚かれたのは、ローテーション人事のことですね。その話をした時、相手は何のことを言っているのか分からず、ポカーンとしていました。考えてみれば、海外企業にローテーション人事なんて存在しませんからね。

海外企業になると人事権は部門長にあって、そもそも人事部などというセクション自体が存在しませんが、日本企業は人事部長の権限が非常に強く、偉そうですよね。銀行員なんかそうですが、飲んでいる時の話題の中心はもっぱら人事。これも日本企業の組織面での問題点だと思いますよ。

藤野:日本企業は職務分掌規定を作って、人事闘争の中で、自分たちの権限を増やすのが仕事だと思っている人が、非常に多い。だから、話をしていてもビジネスをどうクリエイトするかということに対する興味が、上の人になればなるほど無くなっていくのです。だから、日本経済がどうなるのかとか、世界の金利がどうなっているのかという話題を知らない人が、意外と大勢いらっしゃいます。大企業は、ビジネスをクリエイトすることに目が向いていない。これは事実だと思います。

銀行で出世するには「間違えないこと」

中野:それで、ローテーション人事で2年ごとにセクションを変えて、大量のゼネラリストを作ってしまうと。

藤野:もう少し言ってしまうと、日本の大企業って、優秀な人には絶対リスクを取らせないのですよね。だから、本当に優秀な人は人事部に配属されるのです。人事部だったら向こう傷を負わずに済みますからね。

渋澤:私が20代だった頃、日本の銀行の支店長のお宅で英語の家庭教師をしていたことがあるのですが、ある日、ビールを飲みながら話をしていて、「渋澤君、日本の銀行で出世するにはどうすればいいか知っている?」って聞かれたので、ローンを増やすことですかとか、新しい市場を開拓することですかとか、いろいろ答えたのですが、全部違う。「間違えないことだよ」って答えを聞いて耳を疑いました。でも、まさにそういうことですね。

中野:日本の大企業サラリーマンは、一度失敗したら終わりですからね。

藤野:海外の企業は、優秀な人間にリスクを取らせます。その方が成功する確率が高まりますから。でも、日本企業は優秀じゃない人間にリスクを取らせて、1回失敗するとサヨウナラ。これではノウハウなど一向に蓄積されませんし、成長できない。日本企業が抱えている大きな問題点だと思います。

中野:日本の大企業が抱える組織の問題は根深そうですね。でも、そこにメスを入れていかないと、日本の大企業はどんどんダメになっていくような気がしてなりません。今回の三菱自動車の問題をきっかけに、大企業経営者にはそこのところをよく考えてもらいたいですね。

草食投資隊 渋澤 健、中野晴啓、藤野英人

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そうしょくとうしたい

コモンズ投信会長・渋澤 健、セゾン投信社長・中野晴啓、レオス・キャピタルワークス社長CIOの藤野英人の3氏で結成。根底には、「長期投資を根づかせたい」という3人の熱い思いがある。「草食投資隊」という名前は、投資=肉食系というイメージが一見つきまとうが、本質は違うのではないか、という3人の共通の考えによる。

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