新交通を待ち受ける現実 「陸の孤島」の救世主開業 日暮里・舎人ライナーの勝算
今年は鉄道開業の“当たり年”だが、その中でも“難産”という意味では、3月30日に開業した新交通・日暮里・舎人(とねり)(日舎)ライナーがトップクラスだろう。それだけに東京・足立区などの周辺住民にとっては、悲願の新路線ともいえる。
東京都から同線を新交通として導入すると答申が出たのは1985年のことだが、実はそれよりも以前から計画があった。70年代初頭に営団地下鉄7号線(現在の東京メトロ南北線)の計画が持ち上がったときに、これを分岐させて足立区西部を走らせようという構想が始まりだ。
それがあっさりと消えた後に新交通案が浮上するが、99年度と設定された開業予定は、2003年度、07年度へと延期が繰り返される。建設コストの低い新交通だが、それでも東京都の財政悪化などで最終的なゴーサインが出ない。97年に着工にこぎ着けるが、用地買収の遅れもあって、スムーズには進まなかった。
周辺住民は大歓迎だが他地域の客は困難?
紆余曲折を経て開業した日舎ライナー。足立区舎人の見沼代親水公園から日暮里までほぼ直線で南下し、西日暮里、日暮里でJR、京成線と接続する。延長距離は10キロメートル足らずで、ゆりかもめや多摩都市モノレールなどと比べても短い。ただ、この沿線は東武伊勢崎線や埼玉高速鉄道などに挟まれた、鉄道の空白地帯で、住民にとって利便性は高くなる。
これまで住民の足は、バスのみだったが、それが走る尾久橋通りは、東京でも有数の混雑街道。朝方は東京都心に向かう車が集中するため、雨の日などの場合、乗客は1時間以上も超満員のバスに押し込められる。ライナー開通で、こうした問題が完全に解消される。
交通の便の改善を見込んで、この地区にもマンションが建ち始めた。ここ2年ほどは年率2ケタの地価上昇をみせる地域も現れている。
だが、地域住民には歓迎されても、他地域から人を呼び寄せる要素は弱い。初詣の名所である西新井大師へのルートにはなりそうだが、これはシーズン限定のイベントである。
総工費は約1300億円。都では1日の乗客者数5万1000人を予想しているが、それでも累積赤字の解消までには40年近くかかる。多摩都市モノレールなど赤字路線を抱える都としては、計画倒れは何としても避けたいはずだ。
関係者が期待するのは、「隣接する埼玉県からの利用者が増えること」(足立区議会議員の鯨井光治氏)。見沼代親水公園駅から草加市、鳩ヶ谷市までの距離はわずか。ライナー開通と同時にここにバス路線も開通しており、この地域の利用者が今後、どう動くか。それにしても都民の関心はいま一つ。日舎ライナーが駆け抜ける道は決して平坦ではない。
(週刊東洋経済編集部)
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