ペッパーの父が挑む、「癒やしロボ」の進化形 「手を温かく」おばあさんの一言がきっかけに
林氏は心を癒すロボットこそ、現代社会に必要な存在だと主張する。ポイントは「孤独」だ。人間はかつて集団で生活し、狩りや子育てを行ってきた。単独行動では遺伝子を残せず、死を意味するため、集団からの離脱を防ぐ感情として「寂しさ、孤独感」が生まれたという説がある。
現代社会では一人でも生きていくことができる。だが、本能は誤って「寂しい、孤独だ」と警告を発し続けるという。つまり、人間にとって孤独とは今後も直面し続ける課題なのだ。ロボットはこうした人間の本能の要求に対応し、支えることができると考えた。
「ロボットが人の心に食い込み、人もロボットに思い入れを持つ。世の中に求められているが、まだ誰も手をつけていない。だからやる。今はまだマーケットはないが、産業として大きく成長すると思っている」(林氏)。
なぜソフトバンクを去ったのか?
前述したように、林氏はトヨタ自動車の出身。だが、大学院に進学する前にソフトバンクの採用試験を受け、不採用となった経験を持つ。当時は「挫折だった」と振り返るほどのショックを受けた。トヨタ自動車に進んでも悔しさを忘れることはなかったという。
リベンジを果たすべく、2011年に孫正義社長の後継者育成機関「アカデミア」に外部1期生として合格。その後オファーを受けて、2012年4月にソフトバンクに入社している。
このように、林氏にとってソフトバンクは憧れそのものだった。その会社をなぜ4年で後にしたのだろうか。
退職を決意したのは昨年の夏前だったという。きっかけは、組織改編でフランスのロボット開発子会社「アルデバラン・ロボティクス」への赴任が決まったこと。「現場から離れてしまう。現場でなければペッパーの面倒を見られない」。そんな思いがあった。
しかし、決断を後押ししたのはほかならぬ孫社長の教えだった。孫社長はアカデミアで強烈なリーダーシップを熱弁する。「自ら登る山を見つけて道を切り開かなければ、見えてくるものはない」。「頭がちぎれるまで考えろ」。アカデミアは、孫社長が生徒に独立をたきつける場でもあったのだ。
トップの思考を徹底的にたたき込まれ、独立への思いは膨らんでいく。40歳を超えて独立できるチャンスは少ない。ペッパーは面白い仕事だが、軌道に乗せるには4~5年かかるだろう。何より、アカデミアでどれだけ頑張っても孫社長の足元にも及ばない。
熟慮の末に林氏は退職を決意。孫社長に「外に出て大きくなってきます」と報告すると「お前、惜しいな。がんばれよ」。珍しく優しい言葉をかけられたのだった。
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