新幹線、地震の「死傷事故ゼロ」は幸運だった それでも安全対策は万全といえるのか

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2004年10月の新潟県中越地震(マグニチュード6.8)では、上越新幹線のトンネルや橋りょう、高架橋などが損傷した。が、阪神・淡路大震災を受けて対策を講じていた箇所は、被害が軽微であった。

中越地震で重要なのは、乗客151人を乗せて、時速200キロメートルで走行中の新幹線が脱線したことである。直下型地震だったため、非常ブレーキが間に合わず、10両編成中8両が脱線。1両目はレールの左側に脱線し、車輪とギヤケースの間にレールを挟みこむ形で走行した。最後尾の10両目は同右側に脱線し、下り線と上り線の間にある排雪溝にはまったまま、滑走した。列車は約1.6キロメートル走行して停止した。

もし、左側に外れた1両目がレールを挟み込むような形で走行していなかったら、軌道を外れて壁に激突し、高架橋から転落していたかもしれない。また、10両目はレールの右側に大きく逸脱しており、対向車と激突する可能性があった。幸い、対向車は早期地震検知システムが作動して、停止していた。

雪対策を講じていたのが幸いした

熊本地震で脱線した九州新幹線は移送のため、牽引用の車両に連結された(写真は4月22日、撮影:共同)

さらに幸運がある。鉄道の技術に詳しい工学院大学の曽根悟特任教授は、「脱線した新幹線の床下が二重という特殊な構造になっていたことも幸いした」と指摘する。

脱線した200系新幹線は、東北・上越新幹線用に開発されたボディマウント構造という、特殊な構造を採用している。雪の付着を防ぐため、車両下部まで構造材で覆い、その内部に床下機器を搭載しているのだ。脱線した10両目は、飛行機の胴体着陸のように車両下部がレール上を滑走していた。ほかの新幹線列車ではそうはいかない。200系のように床下が頑丈ではないため、脱線して滑走した際、床下機器が脱落し、それが被害を大きくする可能性もあるのだ。

2011年に発生した東日本大震災でも、構造物の被害箇所は多数に上ったものの、致命的な損傷は免れた。また、太平洋岸に設置されていた地震計が地震の初期微動を検知し、強い揺れが到達する前にすべての列車に非常ブレーキがかかり、営業車両の脱線はなかった。ただ、仙台駅構内を時速70キロメートルで試運転走行中の列車が停止直前、脱線した。

このように、脱線による乗客の死傷事故が発生していないのは、営業運転開始前、試運転中、脱線した方向が幸いした、などの理由による。今回の熊本地震で脱線したのも回送列車。まさに幸運以外の何者でもない。

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