とてつもない特権 君臨する基軸通貨ドルの不安 バリー・アイケングリーン著 小浜裕久監訳 ~問題の本質は米国経済そのものにある
国際通貨としてのドルの支配体制が揺らいでいる。ではドルに代わって、どのような通貨が国際通貨になるのか。それはユーロか、中国の人民元か、それともIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引出権)か。この問題を考えるためには金本位制の時代にまで遡って歴史的にとらえることが必要である。
米カリフォルニア大学の教授である著者は、金本位制が成立し、その後それが崩壊してドル本位制に至るまでの歴史を、その制度改革にかかわった銀行家や政治家、さらにケインズのような経済学者などにまつわるエピソードをまじえながら興味深く書いている。
何よりも現在のようなドル本位制がいかにして確立したか、そしてそれが今危機に陥っているのはなぜか、という問題に焦点を合わせている。
それは単に国際通貨制度の問題ではなく、その背後にある米国経済の「健康度」にかかわるとし、通貨制度を変えるだけでは問題は解決できない、と主張する。この点では経済学者スティグリッツと対立する。
問題はドル支配体制の背後にある米国経済の構造をどう見るか、である。米国経済を支配している巨大株式会社の構造と行動をとらえることがとりわけ必要であるが、この本はその点が十分とはいえない。問題の本質は米国経済そのものにある。
ではドルに代わってユーロや人民元、あるいはSDRが国際通貨になるのかどうか、について、著者はいずれにも否定的である。ということは、危機に陥ったままドル支配体制がなお続くということであろうか。
この本の翻訳は読みにくい部分が少なくない。その点で、読者には巻末に収められている「解題」で要点をまず押さえてから、本文を読まれるように勧めたい。
Barry Eichengreen
米カリフォルニア大学バークレー校ジョージ&ヘレン・パーディ教授。1952年生まれ。IMF上級政策アドバイザー、米ハーバード大学准教授を経る。著書に『グローバル・インバランス』『国際金融アーキテクチャー』『グローバル資本と国際通貨システム』。
勁草書房 2940円 318ページ
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