この観点からは、わが国を始め多くの国にて、すでにタックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)で一部対処できている。タックスヘイブン対策税制とは、概していえば、法人所得税が存在しないまたは低税率である国・地域に存在する子会社の所得(利益)を、当該子会社の株式等を一定以上所有する自国の企業または個人の所得に合算して課税する制度である。だから、いくらタックスヘイブンにある会社に利益を上げさせて、そこに留め置いて自国に持って帰らなくても、その利益に対する課税は自国の税率で自国にて行われることになるため、タックスヘイブンに持って行く意味が事実上なくなる。
しかし、それでもなお、全世界的に見れば、不備多く、さまざまな複雑な仕組みを使って合法的に課税逃れは行われている。この点について、各国の税務当局は、当然ながら以前から改善を図ろうと努力してきた。実は、「パナマ文書」が公表される直前、2015年10月にOECDでBEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転:ベップス)プロジェクトが最終報告書を取りまとめていた。
最終報告書の平易な邦文解説は、政府税制調査会の国際課税ディスカッショングループ第6回会合配付資料にある。「パナマ文書」が公表されるとは知らず、このプロジェクトが最終報告書を出していたのだから、今から思うと先見の明があったというべきではないか。
BEPSプロジェクトが掲げた3つの原則
BEPSは、租税回避行為によって引き起こされる。OECDのBEPSプロジェクトは、日本の浅川雅嗣財務省財務官が議長の下、OECD加盟国である先進国だけでなく、中国、インド、ロシア、アルゼンチン、ブラジル、インドネシア、サウジアラビア、南アフリカも加わり、行動計画の策定と実施に当たって国際協調体制を築いた。そして、取りまとめたBEPSプロジェクト最終報告書は、課税所得を人為的に操作した課税逃れを防ぐ15の行動を提示した。この行動計画は、以下の3つの原則を挙げている。
(1)グローバル企業は払うべき(価値が創造される)ところで税金を支払うべきとの観点から、国際課税原則を再構築、(2)各国政府・グローバル企業の活動に関する透明性向上、(3)企業の不確実性の排除である。このうち、低税率・無税によって起こる問題の解消に役立つ原則は、(1)と(3)である。
これを踏まえて、OECDでのポストBEPSプロジェクトは、パナマ文書を分析して(これまでは合法的でも)不公正な取引に対応した国際課税制度の確立を目指すことになる。(1)の原則から、各国間の税制の隙間を利用した多国籍企業による租税回避を防止することが一層強まるだろう。(3)の原則からは、租税回避への対抗措置を効率的に実現するための多数国間協定を2016年末までに策定することとしており、「パナマ文書」の公表はこれを加速させることだろう。
「パナマ文書」の公表は、真面目な納税者が報われる方向に、国際社会を動かすことになりそうだ。
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