JR西日本が観光列車を2本同時投入する狙い アートな島旅を後押し、旧国鉄列車の再現も

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「ノスタルジー」には栓抜きも設置されている

車内では国鉄時代の復刻制服を着用したOBが同乗し、旅をサポートする。ひょっとしたら昔の懐かしい話を聞かせてもらえるかもしれない。

利用した乗客はみな「懐かしい」と感慨深げ。国鉄時代を知らない子供まで「懐かしい」と言うのには驚いた。

当面は土曜・日曜の津山線内の運行に限定されるが、ラ・マル・ド・ボァと違うのは、平日は通常の列車として活用されるという点だ。確かにノスタルジックな点を除けば、普通の列車と変わらない。他路線を走るのも難しくないだろう。

南北で同時展開する理由

ところで、なぜJR西日本は岡山県内に間髪おかず、2本の観光列車を投入したのだろうか。理由の一つはJRグループ6社が共同で行なう大型観光イベント「デスティネーションキャンペーン」が4~6月に岡山県で開催されるためだ。2年ほど前に開催が決定し、JR西日本はプランを練ってきた。

岡山県は政令指定都市の岡山市を始め、倉敷市、備前市など南部に人口が集中する。逆に津山市、新見市など北部は人口減少が著しい。多くの観光客が訪れる人気スポットも日本三大名園の一つである後楽園や倉敷の美観地区、瀬戸大橋など南部に固まる。瀬戸内国際芸術祭の開催に合わせてアートな観光列車を投入するという戦略は理にかなっている。

JR西日本の中村圭二郎・岡山支社長

北部にも津山城などの観光名所はあるが、観光客の足はなかなか向かわない。このままでは南北格差がさらに拡大してしまう。「県北部はのどかな里山風景があふれる場所。なんとかして人の流れを作りたい」。中村支社長のこんな思いが、「ノスタルジー」として結実した。

ノスタルジーの改造規模は、大改装を施したラ・マル・ド・ボァの10分の1程度にすぎない。それでもJR西日本はノスタルジーをラ・マル・ド・ボァと同格に扱い、売り込みに躍起だ。

4月には津山駅にある扇形機関車庫を改装し、「津山まなびの鉄道館」としてオープンさせた。往年のディーゼル機関車や気動車がずらりと並び、こちらもノスタルジー満点だ。

デスティネーションキャンペーンは6月で終了するが、JR西日本の岡山北部振興作戦が歩みを止めることはない。

(撮影:大澤誠)

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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