浦和高校に「分断社会」解消の答えがあった! 誰もが受益者になれる制度設計が必要だ
佐藤:多くの日本人が、新自由主義に首まで浸かっているような状態だと言ってもいいでしょうね。こういう人たちは、新自由主義的な競争社会で勝者になろうとしている。もともとそれが資本主義の本質であって、金融資本が巨大化する中で、その本質があらわになってきたわけですが。
井手:それに加えて、「獣の世」で語られたように、日本では、江戸時代から現在に至るまで、経済的に失敗した人は、道徳的な失敗者だと見なされがちです。「貧しいのは努力をしないからだ」「自己責任だ」と言われてしまう背景には、こうした事情もあります。
佐藤:非常に重要な論点だと思います。
エリート層でも格差が拡大
佐藤:貧富の差について言うと、生活に困窮する人が増加傾向にある一方で、最低でも1人当たり5万円はするような、高級ホテルのディナーの予約が個室から埋まっていったり、世界一周クルーズで知られる豪華客船の予約も、いい部屋から埋まっていって、1年は待たなくてはならないといった現象が目につくようになりました。その意味では、アベノミクスの成果が出ているわけです。
井手:貧しい人が切り捨てられる現実の裏側ですね。実は格差の拡大と子どもの教育は不可分の関係にあります。貧困家庭の子どもは学力が低下する傾向にあり、教育の質が低下すれば労働者の質も低下し、それによって経済成長が妨げられるという研究結果が出ています。もっと中間層やエリートは貧しい人の教育に関心を持って良さそうなんですが。
佐藤:実は、あまり知られていないことですが、エリート層でも階層分化が進んでいます。
昨年、久しぶりに我が母校、埼玉県立浦和高校に行って講演をしてきたんです。講演が終わってから、進学先について生徒たちが相談にやって来たので話を聞いてみると、文化系を志望している生徒の多くが弁護士、あるいは公認会計士になりたいと言うんですね。
僕は「あーあ」と思って、次のように言いました。
せっかく司法試験をパスして弁護士になっても、年収100万にもならず、弁護士会の月々の会費約5万円も支払えず、早々に廃業してしまう連中が1年で何十人もいる。公認会計士にしても、監査法人に就職して2年間の実務経験がないと免許の取得ができず、しかも監査法人に就職できるのは全体の8割ほど。残り2割は資格があっても就職できない。そんな、貧困ビジネスに陥る可能性のある道へわざわざ進むことはない、と。
ところで私のところに年に1回、二十数人の灘高生が訪ねてきます。私の知るかぎり、将来、弁護士になりたい、公認会計士になりたいという灘高の生徒はいません。実は灘高の東大進学率は漸減傾向にあって、東大すら見切られています。英米圏の一流大学が進学先となりつつある。あと15年もすれば、灘高出身の国際的エリートが活躍し始めるはずです。