浦和高校に「分断社会」解消の答えがあった! 誰もが受益者になれる制度設計が必要だ

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井手:最近の日本は、新自由主義を後ろ盾にして「既得権者」のバッシングをし、それを追い風にしつつ、佐藤さんが言うように、「引きはがして、こちらに付ける」ような「再配分」をやってきました。新自由主義をバックボーンにして培われたこうしたやり方は、今後、外国人労働者に対する排外主義へと結びつく可能性があります。

日本の財政は厳しく、配るためのお金がない。「われわれが苦しいのは、あいつらのせいだ」と、外国人労働者に責任をなすりつけることで、有権者の歓心を買う政治の姿が目に浮かぶようです。新自由主義的な発想には、そうした怖さがありますし、現にそういう思考に慣れてしまった政治家が少なくない。それが心配です。

佐藤:外国人労働者が確実に増えているのに、その現実を無視しているから、いつまでたっても外国人労働者の権利は保障されずにいる。当然、法整備も進まない。ひどい状態です。

これは雨宮処凛さんが話してくれたことですが、かつて飲み屋でアルバイトをしていた頃、「中国人がたくさんやって来たら、自分の仕事がなくなってしまうじゃないか」と普通に思っていたそうです。彼女の名誉のために言っておけば、もちろんそれは昔の話であって、今はそんなことはまったくないわけですが。

「羨望」がバッシングを生む

佐藤 優(さとう まさる)/作家・元外務省主任分析官。1960年生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了後、外務省入省。2009年、背任と偽計業務妨害の有罪確定で、外務事務官失職。『自壊する帝国』(新潮社)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞

井手:「××のせいで、自分たちの暮らしが苦しくなる」と言い、これを「したがって、××から収奪しなければならない」という理屈へと捻じ曲げる。間違ったやり方で「社会」を「統合」しようとするわけです。

佐藤:それに関連して、斎藤環さんが興味深い指摘をしています。

精神病理学では「嫉妬」と「羨望」を区別していて、たとえば、マネーゲームの勝者に対して、「あの野郎!」と嫉妬はしても、自分にとっては、絶対に手の届かない世界ですから、「引きずり降ろしてやれ」とはならない。ところが、公務員や生活保護受給者といった、自分とはそう遠くない存在に対しては、「不当な利益を得ている」とか理屈をつけてはバッシングに走り、引きずり降ろそうとする。これが「羨望」なんですね。

井手:なるほど。丸山眞男が指摘した「引き下げデモクラシー」を思い出しますね。自らを向上させようとせず、ひたすら他人を引き下げることで満足を得ようとする傾向のことですが、いまの日本社会では、同じ貧困層の中に、生活保護受給者や年金生活者がいる一方で、夫婦とも非正規雇用で経済的に苦しく子どもをあきらめた人もいる。後者は生活保護も年金も受給していないので、前者に「羨望」を抱くということですね。

それにしても、生活保護を受給している人は、自分より貧しいわけですから、そういう人を引きずり降ろそうとするのって、おかしなことですよね。丸山が「引き下げデモクラシー」で想定したのとは、かなりちがう世界になっている。

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